碧川道夫

碧川道夫（みどりかわ みちお）

碧川道夫は、明治36年（1903年）2月25日に生まれ、平成10年（1998年）3月13日に亡くなった日本の映画カメラマンです。特に映画の色彩技術においては日本のパイオニア的存在として知られています。生涯にわたり数多くの作品の撮影を手がけ、その功績は高く評価されています。

生い立ちと初期のキャリア

北海道小樽市で、父・碧川企救男と母・かたの間に長男として誕生しました。父の企救男は『小樽新聞』で社会部長や論説記者を務めたジャーナリストでした。上智大学を中退した後、大正8年（1919年）に松竹蒲田撮影所に入社し、水谷文二郎やヘンリー・小谷のもとで映画撮影の基礎を学びます。その後、大正15年（1926年）に日活へ移籍し、京都撮影所を拠点に活動しました。日活時代には、劇映画の傍らで京都大学と連携し、医学をはじめとする学術映画の撮影にも取り組みました。この時期、彼は初期の作品だけでも多数の映画の撮影を担当しており、その多作ぶりがうかがえます。

技術への探求と色彩のパイオニア

昭和16年（1941年）には日本映画社に入社し、技術長に就任。さらに撮影者の育成にも力を入れ、養成所長も務めました。戦後、映画技術、特に色彩への関心を深めた道夫は、昭和27年（1952年）に渡米し、色彩技術の研究に没頭します。この研究成果は、翌年に公開された衣笠貞之助監督の映画『地獄門』で色彩技術監督として活かされ、その卓越した色彩表現は高い評価を得ました。この功績により、昭和29年（1954年）度の文部省芸術祭では文部大臣賞を受賞しています。

映画監督の内田吐夢とは義理の兄弟にあたり、その関係性も深く、昭和38年（1963年）には内田監督やカメラマンの宮島義勇と共に「碧川映画科学研究室」を設立し、映画技術の研究と発展に尽力しました。また、昭和38年から昭和43年（1968年）にかけては日本大学芸術学部で教鞭を執り、後進の指導にもあたっています。彼の技術指導は、後年の日本映画の発展にも影響を与えました。

主な業績と関与作品

初期の松竹・日活時代には数十本に及ぶ劇映画の撮影を手がけました。後年には、技術指導や技術監督、色彩技術顧問として、日本映画史に残る重要な作品に携わっています。

『地獄門』（1953年）- 色彩技術監督として参加。文部大臣賞受賞のきっかけとなった作品です。
『怪談』（1965年）- 小林正樹監督のオムニバス映画。色彩技術顧問としてその独特な映像美に貢献しました。
『飢餓海峡』（1965年）- 内田吐夢監督の傑作。W106方式という特殊な撮影技術の指導にあたりました。
『東京オリンピック』（1965年）- 市川崑監督による記録映画の金字塔。技術監督の一人として参加し、壮大な記録映像の実現に貢献しました。

これらの作品は、彼の色彩技術や撮影技術に関する深い知識と経験が、どのように映画表現に活かされたかを示す代表例と言えるでしょう。

家族と系譜

碧川道夫は、詩人の三木露風を異父兄に、映画監督の内田吐夢を妹の夫、すなわち義弟に持ちます。彼の家族、特に母のかたは看護婦や婦人運動家としても活動した人物でした。

碧川家は、宝永年間（1704年 - 1710年）に伊勢（現在の三重県）で始まり、新谷藩に仕えた家系です。家紋は「沢瀉（おもだか）」。碧川家五代目の好尚（よしひさ）は国学者平田篤胤の門下生であり、篤胤の娘婿として平田家を継いだ弘良（平田銕胤）は好尚の兄にあたります。好尚には男子がいなかったため、泉州伯太藩士の子である小玉羊五郎が養子として迎えられました。この羊五郎が後の碧川真澄であり、道夫の祖父にあたります。真澄は検事や弁護士を務め、碧川家の家系を継ぎました。

晩年

碧川道夫は平成10年（1998年）にその生涯を閉じました。墓所は東京都杉並区にある築地本願寺和田堀廟所にあります。日本の映画史において、特に初期の劇映画から後年の記録映画、そして何よりも色彩技術の確立と普及に貢献した功績は、今なお語り継がれています。

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