社長道中記

社長道中記：珍道中と笑いとロマンスが織りなす東宝コメディ

1961年、東宝系で公開された『社長道中記』は、人気の高い『社長シリーズ』の第10作目です。本作は、シリーズの中でも特筆すべき点が多くあります。まず、2年ぶりに松林宗恵監督がシリーズに復帰したこと、そして古関裕而氏がシリーズで初めて音楽を担当したことが挙げられます。

さらに、『社長シリーズ』において原作付きの作品は珍しいのですが、本作と続く『続・社長道中記』は、源氏鶏太の小説『随行さん』を原作としています。ただし、これは『新・三等重役』シリーズのような傍系作品を除いた場合の話です。また、シリーズの常連だった司葉子さんが出演していない点も特徴的です。小林桂樹さんの相手役は、本作では団令子さんが務めています。

物語の舞台は、太陽食料という缶詰会社です。社長である三沢英之助（森繁久彌）は、カエルやマムシ、カタツムリといった変わり種の缶詰を売り込むため、出張することになります。真面目だが出世が遅い桑原武（小林桂樹）は、社長の随行を命じられます。

出張の旅は、予想外の出来事の連続です。まず、社長は特急こだまの車内で、美女が現れるたびに席を替えてくれとわがままを言い出します。海外にも販売網を持つ南海物産の本田社長（三橋達也）との接待の場でも、社長の浮気癖は健在で、東京からバーのマダムを呼ぶ騒ぎになります。強壮剤を飲んでマダムを待つ社長と桑原ですが、それは桑原が持ってきた睡眠薬で、二人とも間違えて飲んでしまい騒動に発展します。

社長が朝起きないため、東京から社長夫人（久慈あさみ）と桑原の恋人である敬子（団令子）がやってきます。敬子は、桑原と芸者（新珠三千代）の仲を疑ってしまいます。

一方、ゴルフ場で本田社長に会うことになった三沢は、マムシの缶詰のおかげで「ホールインワン」に成功したと喜ぶ本田社長と契約を結びます。しかし、桑原は敬子の誤解を解くことができずに困り果てるという、なんともドタバタな展開が続きます。

本作の見どころの一つは、大阪と白浜温泉でのロケです。地方ならではの風景や人々の生活が、映画に独特の風情を与えています。個性豊かな登場人物たちが織りなすコミカルなやり取りや、ロマンス要素も加わった、テンポの良いストーリー展開は、観るものを飽きさせません。

スタッフも豪華です。製作は藤本真澄、脚本は笠原良三、撮影は鈴木斌、照明は猪原一郎、美術は浜上兵衛、録音は矢野口文雄と下永尚、編集は岩下広一、助監督は田実泰良、スチールは秦大三と、東宝映画を支えた名だたるスタッフが名を連ねています。

さらに、森繁久彌、小林桂樹、加東大介、三木のり平、団令子、新珠三千代、淡路恵子、三橋達也といった、実力派俳優たちの競演も見逃せません。脇役陣も個性的で、それぞれのキャラクターがしっかりと描かれており、物語に深みを与えています。

劇中、森繁久彌と小林桂樹が演じるCMは『森の石松』のパロディである点も、注目すべきポイントです。

『社長道中記』は、笑いあり、ロマンスあり、そして個性豊かなキャラクターたちが織りなす、心温まるエンターテイメント作品です。東宝映画黄金期の代表作の一つとして、今もなお高い人気を誇る作品です。同時上映作品は黒澤明監督の『用心棒』でした。

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