社長シリーズ

東宝映画『社長シリーズ』：高度成長期の笑いと人情

1956年から1970年にかけて東宝が製作した喜劇映画シリーズである『社長シリーズ』は、高度経済成長期の日本社会を背景に、森繁久弥演じる社長とその周囲の人物たちの騒動を描いた人気作です。同時期に公開された『駅前シリーズ』にも出演していた森繁久弥は、これらのシリーズを通して、東宝の興行を大きく支えました。

シリーズの起源は、河村黎吉、森繁久弥、小林桂樹が出演した1952年の『三等重役』正続2本にあります。この作品で生まれた、森繁演じる人事課長が社長の蕎麦を鋏で切るというギャグは、『社長シリーズ』でも定番となりました。森繁久弥が社長役、小林桂樹が秘書役としてシリーズを通して出演しています。

基本的なストーリーは、高度成長期の企業を舞台に、社長である森繁久弥の浮気騒動や、個性的な社員たちとのドタバタ劇を描いたもの。森繁社長は、美人と浮気をしようと試みるものの、必ず寸前で失敗するというお約束が繰り返され、また、森繁や三木のり平らによる宴会芸もシリーズの見どころでした。さらに、変な日本語を話す日系人や中国人（フランキー堺）なども定番キャラクターとして活躍しました。

社長シリーズの特徴として、社長といえども頭が上がらない人物の存在が挙げられます。初期には先代社長夫人（三好栄子）、後期には親会社の大社長（東野英治郎）や社長夫人の父親（宮口精二）などが登場し、社長の権力には限界があることを示唆しています。「三等重役」というタイトルにもあるように、完全な実力のないサラリーマン社長を描くという伝統もこのシリーズにはありました。

脚本は全作品を笠原良三が担当し、監督は松林宗恵がシリーズの大半を手がけました。松林監督は『社長三代記』正続篇（1958年）から『社長太平記』正篇（1959年）まで連続して監督を務めましたが、自身の目的とは異なるとして次作の監督を降板。その後、『社長道中記』（1961年）で再び監督を務め、この作品が好評だったことから、以降積極的に監督業に携わるようになりました。松林監督は、このシリーズで人間への信頼を特に大切にしていたと言われています。また、『社長道中記』からは正篇を東京、続篇を地方を舞台にした観光映画にするというアイデアも松林監督によるものです。

1964年の『社長紳士録』正続編をもって一旦シリーズは終了する予定でしたが、観客や映画館主からの強い要望により、翌年『社長忍法帖』で再開しました。しかし、1967年の『社長千一夜』を最後に、三木のり平とフランキー堺が降板。1968年の『社長繁盛記』以降は試行錯誤が続き、1970年の『社長学ABC』で森繁久弥社長によるシリーズはついに幕を閉じました。その後、1971年には小林桂樹主演の続篇的作品『昭和ひとけた社長対ふたけた社員』が2作制作されました。


主要レギュラーキャスト

森繁久弥： シリーズの主役である社長。人徳があり、会社の業績向上に尽力する一方で、妻に隠れて浮気を試みるなど、だらしない一面も持ち合わせています。
小林桂樹： 森繁社長を支える真面目な秘書。社長の浮気を隠蔽するために利用されることもありました。シリーズ後半では出世し、社長の地方出張に同行しないこともあります。
加東大介： 総務部長や営業部長など、社長に次ぐ役職を務めました。
三木のり平： 地方出張と宴会好きの営業部長。宴会シーンでの珍芸はシリーズの名物でした。『社長千一夜』でシリーズを降板。
フランキー堺： 強烈なキャラクターで登場する、大口取引相手や地方の名士などを演じました。『社長千一夜』でシリーズを降板。
久慈あさみ： 森繁社長夫人役。
* 司葉子： 小林桂樹演じる秘書の恋人、後に妻役として出演。


その他にも数多くの俳優がレギュラー、準レギュラーとして出演し、シリーズを彩りました。

シリーズ作品の数や含まれる作品に関して、様々な見解が存在します。例えば、『サラリーマン忠臣蔵』や『サラリーマン清水港』をシリーズに含めるか、また『おしゃべり社長』や『新・三等重役』シリーズ、『昭和ひとけた社長対ふたけた社員』をシリーズに含めるかについては、資料によって異なっています。


『社長シリーズ』は、高度経済成長期の日本社会をユーモラスに描き、多くの観客を魅了した作品群です。森繁久弥をはじめとした個性豊かな俳優たちの演技、そして笠原良三の脚本、松林宗恵ら監督たちの演出によって生み出された、日本の喜劇映画史における重要な作品群と言えるでしょう。

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