祖母谷温泉

祖母谷温泉 - 黒部峡谷の山岳秘湯

祖母谷温泉（ばばだにおんせん）は、富山県黒部市宇奈月町黒部の、黒部峡谷上流部にある温泉地です。標高およそ770メートル地点に位置し、人里離れた山奥にひっそりと湧く秘湯として知られています。

泉質と効能

当温泉の泉質は単純硫黄泉（硫化水素型）で、源泉温度は77.5℃と高温です。毎分373リットルという豊かな量が自然に湧き出しており、pHは7.7の弱アルカリ性、溶存物質は787mg/kgを含んでいます。

祖母谷温泉には主に二つの異なる源泉が利用されています。一つはこの地に直接湧き出る源泉で、主に内湯に使われ、古くから皮膚病に良いとされてきました。もう一つは、少し上流にある「祖母谷地獄」から引かれている源泉で、こちらは露天風呂に利用されています。この引湯された温泉は飲用することも可能で、飲むと胃腸の働きを助ける効能があるといわれています。

温泉地の様子と宿

黒部峡谷鉄道の終点である欅平駅から、名剣温泉を経由して約60分の道のりを歩いた先に、一軒宿の「祖母谷温泉小屋」があります。この施設は旅館ではなく、山小屋としての性質が強いため、宿泊にはいくつかの注意が必要です。例えば、部屋は相部屋となる場合があり、電力は自家発電のため消灯時間が設けられています。こうした点を含めて、山小屋の文化を理解した上での利用が推奨されます。

宿の周辺、河原には小さなプールほどの広さを持つ開放的な露天風呂があり、自然の中で温泉を楽しむことができます。祖母谷温泉小屋は例年5月から11月末にかけて営業しており、収容人数は約50名です。

周辺環境と地名の由来

温泉地は、祖父谷（じじだに）と祖母谷という二つの沢が合流する地点に位置しており、温泉の名前もこの地理的な特徴に由来しています。少し上流の川原には「祖母谷地獄」と呼ばれる場所があり、ここでは熱い温泉が勢いよく噴き出しています。この豊富な温泉を利用して、登山者などが岩や流木を組み合わせて川の冷たい水と調整し、自分たちで手作りの露天風呂（いわゆる野湯）を作ることも可能です。下流にある名剣温泉も、この祖母谷地獄から温泉を引き湯して利用しています。

温泉地周辺には、キャンプ場も整備されており、約30張りのテントを収容できます。

登山基地として

祖母谷温泉は、北アルプス後立山連峰への登山における重要な拠点の一つでもあります。特に、白馬岳や唐松岳といった名峰を目指す登山者が利用することがあります。例えば、長野県側からこれらの山々を登り、下山ルートとして祖母谷温泉を経由する健脚向けのコースが存在します。しかし、これらのルートは標高差が大きく、体力が必要なため、利用する登山者の数はそれほど多くはありません。

主な登山ルートには、祖母谷温泉から不帰岳避難小屋を経て白馬岳へ至るルートや、祖母谷温泉から餓鬼山避難小屋を経由し唐松岳へ向かうルートなどがあります。

歴史

祖母谷温泉の歴史は明治時代に遡ります。1887年、当時の魚津町（現在の魚津市）の人物である朝田新兵衛氏が源泉の営業権を獲得しました。その後、祖母谷や祖父谷方面への林道が整備された翌年の1905年に、現在の温泉地がある祖母谷と祖父谷の合流地点にて開湯に至りました。しかし、1914年の水害によって施設は大きな被害を受け、一旦営業を休止しました。

水害の後、富山営林署が建物を一部修繕し、新しい浴場を設置しました。戦後の1951年7月末には、経費30万円をかけて建坪13.5坪の山小屋が完成しています。温泉施設はその後も自然の影響を受けやすく、1967年に建設された堰堤によって、かつての温泉施設が水没したため、現在の場所へと移転しました。1969年の洪水では再び被害を受けましたが、幸いにも源泉の流失は免れました。施設の経営は、営林署が管理する営林弘済会によって行われていましたが、1981年に個人に温泉施設の払い下げが行われ、現在に至るまで個人の手によって運営されています。

アクセス

祖母谷温泉へのアクセスは、黒部峡谷鉄道を利用するのが一般的です。欅平駅が最寄り駅となり、そこから徒歩でおよそ60分かかります。ただし、黒部峡谷鉄道は通年運行しているわけではなく、また運行区間も時期によって変動するため、利用の際には運行状況を事前に確認することが非常に重要です。

また、祖母谷温泉を含む周辺地域（黒部市宇奈月町祖母谷）は、日本郵便によって交通困難地に指定されています。このため、地域外からこの住所宛てに郵便物を送ることはできません。アクセスが容易ではない、まさに秘境といえる場所に位置しています。

関連事項

黒部峡谷
中部山岳国立公園

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