神の国 (エルガー)

神の国 (The Kingdom), 作品51

エドワード・エルガーが作曲したオラトリオ『神の国』作品51は、独唱者、合唱、そして大編成の管弦楽のために書かれました。これは彼の後期合唱作品の中でも重要な位置を占める作品であり、『ゲロンティアスの夢』や前作にあたる『使徒たち』に続くものとして知られています。

作品の背景と構想

本作は、1906年のバーミンガム・トリエンナーレ音楽祭からの委嘱を受けて作曲されました。エルガーは長年にわたり、イエスの十二使徒を、超常的な出来事に直面する「普通の人間」として描くという壮大な構想を温めていました。このアイデアは単一の作品には収まりきらず、『使徒たち』に続く第二部として『神の国』が誕生しました。エルガー自身は後に、これら二作を未完に終わった三部作の冒頭二部と位置づけ、最終作として『最後の審判』を計画していました。『神の国』はこの構想の中で、ある種の緩徐楽章、あるいは休息の期間を示す作品と考えられていました。作品は、初期の教会組織がどのように形成され、ペンテコステ（聖霊降臨）とその後の数日間に何が起こったのかに焦点を当てています。

作曲と初演

『神の国』の音楽的なスケッチは1902年には既に始まっており、一部の素材は『使徒たち』よりも早く形になっていたと言われています。本格的な作曲作業は1906年から開始され、エルガーは自信を持って一気に書き上げたと伝えられています。

作品の初演は、委嘱元であるバーミンガム音楽祭において、1906年10月3日に行われました。指揮台には作曲者エルガー自身が立ち、ソプラノのアグネス・ニコルズ、アルトのマリエル・フォスター、テノールのジョン・コーツ、バスのウィリアム・ヒグリーといった著名な独唱者たちが参加しました。この初演は成功を収め、その翌月にはロンドンでの初演も行われています。この作品は、ドイツの指揮者ユリウス・ブーツによってドイツ語にも翻訳されました。作品は「A. M. D. G.」（Ad majorem Dei gloriam、神のより大いなる栄光のために）に献呈されています。

楽器編成と構成

本作は大規模な編成を要求します。大管弦楽団に加え、二つの主要合唱団と小合唱団が用いられます。独唱者は4名で、それぞれ特定の聖書の登場人物を演じます。ソプラノが聖母マリア、アルトがマグダラのマリア、テノールが聖ヨハネ、バスが聖ペトロを担当します。

曲は前奏曲に始まり、5つの部分が切れ目なく演奏される連続形式をとっています。テクストは主に『使徒言行録』からエルガー自身が抜粋したものですが、『福音書』など他の聖書の記述も含まれています。

各部は以下の内容を描写しています。

1. In the Upper Room：弟子たちが集まり、使徒ユダに代わる者としてマティアが選出されます。
2. At the Beautiful Gate：二人のマリアが寺院でイエスが行った教えや奇跡を回想します。
3. Pentecost：弟子たちの上に聖霊が降り、彼らが異言を語り始め、群衆に向かって説教を行います。
4. The Sign of Healing：ペトロとヨハネが神殿で足の不自由な男性を癒した後、逮捕され収監されます。
5. The Upper Room：ペトロとヨハネが釈放され、再び弟子たちと共に集まります。パンを分け合い、『主の祈り』を唱和して作品を締めくくります。

音楽の特徴と評価

エルガーの円熟期の他のオラトリオと同様、『神の国』もまた、前奏曲で作品全体の主要な主題や雰囲気が提示されます。音楽全体は非常に抒情的であり、神秘的な響きを持っています。前作『使徒たち』と比較すると、物語を追いかけるという要素は後退し、より内省的、瞑想的な性格が強いと言えます。音楽的なクライマックスとしては、劇的なペンテコステの描写、二人のマリアが歌う感動的なアリア「日が沈む (The sun goeth down)」、そして最後の『主の祈り』に付された祈りの音楽などが挙げられます。

『ゲロンティアスの夢』ほどの頻度ではありませんが、『神の国』は特にイギリス国内において、優れた合唱団によって現在も演奏され続けています。エイドリアン・ボールト卿をはじめとするエルガーの熱心な擁護者の中には、この作品が『ゲロンティアスの夢』をも凌ぐほどの一貫性と質の高さを備えており、エルガーの合唱作品における最高傑作であると評価する声も存在します。

余談ですが、アマチュア化学者でもあったエルガーは、この作品の草稿の一部を自宅の実験室にあった化学物質で染色していたという逸話も残されています。

この作品は、信仰の共同体の誕生と、初期の弟子たちの精神的な旅路を深く描いた、エルガー円熟期の重要な遺産と言えるでしょう。

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