神路信号場

神路信号場：消えゆく集落の記憶を刻んだ駅

北海道中川郡中川町字神路に存在した神路信号場は、日本国有鉄道宗谷本線の信号場でした。1922年（大正11年）11月8日、北海道大学演習林の強い要望により、木材搬出の利便性向上を目的として一般駅として開業しました。当初は、開拓農家や鉄道職員が居住する小さな集落の中心に位置していました。

しかし、1963年（昭和38年）12月、神路大橋の落橋という大きな出来事が、神路地区の運命を大きく変えました。この事故をきっかけに、住民は次々と地区を離れ始め、1967年（昭和42年）には最後の農家が撤退。鉄道官舎も姿を消し、集落は消滅しました。1973年（昭和48年）には『北海道 駅名の起源』において「駅周辺には人家が一軒もないところ」と紹介されるほど、静寂に包まれた場所となりました。

この人口減少と集落消滅という状況を反映し、神路駅は1977年（昭和52年）5月25日に信号場兼仮乗降場へと変更されました。停車する列車は1日1往復のみとなり、その後の利用者減少は避けられませんでした。そして、1985年（昭和60年）3月14日、神路信号場は廃止されました。2005年（平成17年）頃には、残っていた駅舎も老朽化のため撤去され、かつて駅が存在した痕跡は僅かとなりました。

駅名の由来：神々の道、それとも熊の道？

駅名は、所在する地域の地名に由来します。対岸の崖（現在の神居山）はアイヌ語で「カムイルエサニ（kamuy-ru-e-san-i）」と呼ばれており、「神の・坂路が・そこから・浜に出る・所」という意味があるとされています。これは、神路という地名が、神聖な場所、あるいは神々が通る道といったイメージと結びついていることを示唆しています。

一方、NHKアーカイブス「1977年の神路駅」では、別の説も紹介されています。同番組では、当時の駅長が「アイヌ語でクマを神様と呼んでおり、クマが通った路から駅名がついた」と語っていたという記録が残されています。この説は、神路という地名の由来に、地元住民の信仰や生活と密接に結びついたクマの存在が影響している可能性を示唆しています。いずれの説も、アイヌ文化と深く関わる、興味深いものです。

駅の構造と利用状況

神路駅は、相対式2面2線の地上駅で、列車同士の交換が可能な構造でした。現在の宗谷本線はこの当時の2番線に沿って敷設されています。利用状況については、具体的な数値データは残されていませんが、集落の消滅とともに利用客は激減し、廃止に至ったことは明らかです。

周辺環境とアクセス

神路大橋の落橋後、新しい橋が架けられることはありませんでした。そのため、神路地区へのアクセスは非常に困難であり、周辺の開発も進んでいません。現在では、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーション中川研究林、神路大橋の橋桁・橋台跡地、中川町立神路小学校跡地、日本通運稚内支店神路派出所跡地などが、かつての集落の面影を伝えるわずかな存在となっています。

神路信号場は、木材搬出という経済的な側面と、集落の消滅という社会的な側面、そしてアイヌ文化に深く根ざした地名など、様々な要素が複雑に絡み合った歴史を持つ場所でした。その存在は、北海道の過疎化問題や地方の変遷を考える上で、重要な事例として捉えることができます。現在、残されているものは少ないですが、その歴史を学ぶことで、北海道の近代化と人々の暮らしの変化を深く理解することができるでしょう。

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