秘録怪猫伝

1969年12月20日に封切られた大映製作の時代劇映画『秘録怪猫伝』（ひろくかいびょうでん）は、怪談ジャンルの中でも特に根強い人気を持つ「化け猫」をテーマとした作品である。本作は、監督を務めた田中徳三にとって、大映時代に手がけた最後の長編映画としても知られている。物語の舞台は江戸時代の佐賀藩。当地に古くから語り継がれる「鍋島の化け猫騒動」を題材に、人間の情欲と怨念、そして超常的な復讐劇が描かれる。

本作は、大映が手掛けたカラーワイド作品群の中で、唯一本格的に化け猫伝説を取り上げた異色の存在感を放つ。映画に登場する重要なキャラクターである化け猫「たま」には、全国から集められた約60匹の中から厳正なオーディションを経て選ばれた猫が起用されたという逸話も残っている。

映画の公開を間近に控えた1969年12月14日、作中に出演していた女優・毛利郁子が関係者刺殺事件を起こし逮捕されるという衝撃的な事件が発生した。この予期せぬ出来事は、図らずも作品に不穏な現実味を加え、公開当時大きな話題となった。

物語は、時の権力者である鍋島丹後守が、美しい娘・小夜に執着することから始まる。丹後守はその醜い欲望のために、小夜の兄である竜造寺又七郎を非道な手段で殺害する。兄を奪われ絶望した小夜は、自らの飼い猫である「たま」に仇討ちを託し、悲壮な最期を遂げる。小夜の深い怨念と猫の魂が結びついたその夜から、佐賀城内では説明不能な怪奇現象が次々と発生し、鍋島家を恐怖のどん底に突き落としていく。猫の姿を借りた小夜の怨霊は、果たして丹後守への復讐を遂げることができるのか、といった展開が繰り広げられる。

物語を彩るキャラクターには、主人公格として登場する小森半左衛門を本郷功次郎が演じている。悲劇のヒロインとなる小夜を亀井光代が、悪役である鍋島丹後守を上野山功一が演じている。また、問題となった事件に関連して、沢の井役で毛利郁子が出演していることも特筆される。その他、お豊の方に小林直美、矢淵刑部に戸浦六宏、早苗に川崎あかね、浪江に丘夏子、五月に熱田洋子、八重に白川千秋、小信に和田かつら、しのに三輪京子、栗助に寺島雄作、島崎庄兵衛に杉山昌三九、郷田甚左衛門に玉置一恵といった俳優たちが脇を固めている。

『秘録怪猫伝』は、同時期に同じ大映が製作した時代劇『眠狂四郎 卍斬り』と二本立てで公開された。『眠狂四郎 卍斬り』は池広一夫が監督し、松方弘樹が主演を務めた作品で、人気シリーズ「眠狂四郎」の第14作目にあたり、松方弘樹主演としては2作目、シリーズ最終作として知られている。

『秘録怪猫伝』は、大映が得意とした怪談映画の系譜に連なる一本であり、当時のエロティックかつグロテスクな表現と、日本の古典的な怪談である化け猫伝説を融合させた作品として、カルト的な人気を誇る。悲しい人間の因果と、それを乗り越えるかのように描かれる猫の異様な姿が、観る者に強い印象を残す。

もう一度検索