移動

「移動」とは、ある場所から別の場所へと位置を変える、あるいは位置が変化することを意味します。単に人や物が物理的に動くことだけでなく、様々な分野で専門的な概念として使われます。

空間における移動

最も一般的な意味では、物体が空間内のある点から別の点へ移る物理的な現象を指します。

生物の移動

生物学において、生物がそれまで生息していた場所から別の場所へ移ることは「移住」とも呼ばれ、その種の拡散や繁栄に不可欠な要素です。特定の場所から外へ出ていくことを「移出（emigration）」、他の場所から入ってくることを「移入（immigration）」といいます。これらの出入りが周期的に繰り返される動きは「回帰移動」と呼ばれ、渡り鳥や回遊魚などがその典型です。一方、元の場所に戻らない移動は「非回帰移動」と呼ばれ、個体群の過密を解消するためのレミングの大量移動や、歴史上記録されてきたバッタの大発生による移動（蝗害の原因となる密度依存的な移動）などがこれにあたります。

生物の移動には、自身の運動能力を使って積極的に行う「能動的移動」と、風や水流などによって運ばれる「受動的移動」があります。能動的移動は、餌を探したり捕食したりするための行動が中心ですが、敵からの逃避、繁殖、越冬、あるいは乾季に水を求めたり雨季に洪水を避けたりといった、環境の変化に対応するための移動も含まれます。一方、受動的移動は、特に小さな動物に見られますが、植物の種子が風で散布されたり、真菌の胞子が空中に漂って広がったりするなど、自力での移動が難しい生物の分散方法として重要な役割を果たします。
また、生物の一生の中で、生活の中心となる場所（行動圏）そのものが変わることも移動の一種です。これには、成長の特定の段階で新たな定住地へ移る場合と、生まれた場所から独立して生活を始めるために定住地へと分散する場合の二種類があります。

遺伝子の移動

遺伝学の分野では、集団間で個体や個体群が行き来することによって、遺伝子が異なる集団間を移り動く現象を「移動」と表現します。

数学における移動

数学では、「移動」はしばしば「平行移動」を指します。特にアフィン空間における「アフィン変換」の一種として捉えられますが、より一般的には、対称性を持つ空間での変換全般を指すこともあります。

言語における移動

言語において、主体の位置が変化する動作を表す動詞を一般に「移動動詞」と呼びます。日本語では、「行く」「来る」「進む」「戻る」「帰る」「出る」「入る」「上る」など、様々な移動動詞が存在します。

「行く」と「来る」

移動動詞の中でも特に基本的で方向性を示すのが「行く」と「来る」です。「行く」は、ある基準点から主体が遠ざかる動きを、「来る」は基準点へ主体が近づく動きを表します。これらの動詞を使う際には、誰（何）が、どこから、どこへ移動するのかを示す主体や到達点を明確にすることが一般的ですが、文脈によっては省略されることもあります。
「行く」や「来る」は、文字通りの移動だけでなく、多様な意味合いで使用されます。例えば、「～が～から～へ行く（来る）」という形で、自力で移動する物の動きだけでなく、移動できない物が誰かの手によって運ばれる（届く）意味でも使われます。「～は～へ行く」という文では、交通機関や道路が特定の場所へ通じていることを示す場合もあります。「～を行く」は、特定の終点を持たない通過や進行を、「～まで行く」は、抽象的な状態や度合いがあるレベルに達することを表すことがあります。「～が来る」は、特定の時期が到来することや、ある事実が原因となって結果が生じる（由来する）ことを示す場合もあります。
なお、「行く」の読み方には「ゆく」と「いく」がありますが、現代日本語では、一般的に書き言葉では「ゆく」、話し言葉では「いく」が用いられる傾向にあります。

これらの他にも、人や物の大規模な移動を指す「輸送」「運輸」「交通」や、物理学・化学における物質やエネルギーの移動現象を扱う「移動現象論」など、「移動」に関連する様々な概念が存在します。

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