種名

種名とは

種名とは、生物の種を識別するための名称です。これは、日本語で用いられる和名（標準和名）と、学術的な文脈で使用されるラテン語の学名の両方に存在します。種名は、生物分類における種という階級を表すタクソン（分類群）に与えられます。同様に、属や科といった上位の分類階級には「属名」「科名」があり、亜種、変種、品種といった下位の分類階級には「亜種名」「変種名」「品種名」という名称が用いられます。

学名

学名では、二名法という命名規則が採用されています。動物や植物の場合、種名は「属名＋種小名」で構成されます。細菌の場合は、「属名＋種形容語」となります。種小名または種形容語は、ラテン語またはラテン語化された形容詞や名詞を用いることとされています。種小名または種形容語の部分だけを指して「種名」と呼ぶのは誤りです。

和名

和名は学名とは異なり、二名法を使用しません。そのため、属名と種小名の区別はありません。和名には形容的な接頭辞が付いていることが多いですが、必ずしも近縁種であることを示すわけではありません。例えば、バラ科のビワとクワ科のイヌビワ（イチジクと同属）は、果実の形態が似ていますが、科が異なるため系統は遠いです。

和名に用いられる接頭辞の例

色を表す語:
アカ（赤）、キ（黄）、クロ（黒）、シロ（白）などがあります。これらの接頭辞は、その種の色が特定の傾向を持つことを示します。
地名:
アメリカ、チョウセン、タイワン、エゾ、リュウキュウなどの地名が接頭辞として使われます。例えば、アメリカは新大陸産種、チョウセンはユーラシア大陸産種を示すことが多いです。これらの地名は、かつて日本が領有していた地域に由来します。琉球列島では、ヤク、アマミ、ヤンバル、ヤエヤマ、サキシマといった接頭辞も用いられます。
イエ（家）、ノ（野）:
イエは人家に生息する性質、ノは栽培植物ではない野生種であることを示します。イエは主に動物に、ノは主に植物に使われますが、野生化した家畜などには動物にも使われます（ノネコ、ノヤギなど）。
イソ（磯）、ウミ（海）、ハマ（浜）、オキ（沖）:
海洋性や沿岸性を示す接頭辞です。ウミは系統が異なる海産生物にも使われることがあります（ウミウサギ、ウミケムシなど）。オキは主に海産生物に用いられます。
イヌ（犬）:
「似て非なる」という意味で使われ、主に植物に用いられます。基準となる植物が有用である場合、イヌが付くものは役に立たないという否定的なニュアンスを含みます。ただし例外もあります（イヌサフランなど）。動物の場合は寄主を示すことがあります（イヌノミなど）。
オオ（大）、オニ（鬼）、ダイオウ（大王）、オオサマ（王様）、トノサマ（殿様）:
基準となる種よりサイズが大きいことを示します。オニはより大きい場合や、生物体がゴツゴツしている印象、刺に覆われている場合に使われます。サイズは、ダイオウ＞オオサマ＞トノサマ＞オニ＞オオの順になるのが一般的です。
クサ（臭）、ニオイ（匂）:
香りがすることを示しますが、クサは悪臭、ニオイは芳香を示すことが多いです。ただし、ニオイでも悪臭の場合があります。クサが草の意味である場合もあります（クサギは臭木、クサカゲロウは臭蜉蝣、クサイは草藺）。
クマ（熊）、ケ（毛）:
多毛性や体毛が生えていることを示します。
コ（小）、ショウ（小）、スズメノ（雀之）、チビ、ヒナ（雛）、ヒメ（姫）、マメ（豆）、ケシ（芥子）、ツブ（粒）、コナ（粉）、ミジン（微塵）:
基準となる種よりもサイズが小さいことを示します。同属内では、コ又はショウ＞ヒメ＞チビ＞ヒナが一般的ですが、昆虫などの種数が多い生物群では、コ又はコガタ又はショウ＞ヒメ＞マメ＞ケシ＞ツブ＞チビ＞チビケシ＞コナ＞ミジンと細かく使い分けられることがあります（ゲンゴロウなど）。スズメノは植物のみに用いられます。
タカネ（高嶺）、ミヤマ（深山）、ヤマ（山）:
山地に産することを意味し、タカネは特に高山性を示します。ミヤマは必ずしも山地性とは限りません。
ダマシ（騙）、ニセ（偽）、モドキ（擬）:
基準となる種に似て非なることを示します。ニセは接頭辞、モドキとダマシは接尾辞として使われます。学名にも類似の接尾辞や接頭辞があります。種数の多い生物群では、同属内でモドキ、ダマシ、ニセが別種として命名されることがあり、混乱を招くため近年はあまり使われません。モドキは罵倒語としても使われるようになりました。
ナミ（並）、ホン（本）、マ（真）:
最もありふれた種や、基準となる対象種であることを示します。
メクラ（盲）、メナシ（目無）:
洞窟性で目が退化している様子を示します。魚類、甲殻類、爬虫類に多いですが、近年では差別的との指摘があります。

表記

学名も和名も、地の文とは異なる書体で表記します。

学名

学名は通常イタリック体で表記し、手書きやタイプライターでは下線を引きます。ウィキペディアでは、イタリック体を表す「弱い強調」（''で囲む）を用いるのが一般的です。

和名

和名は、地の文がひらがなであるため、カタカナで表記するのがルールです。漢字やひらがなで書くのは誤りです。

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