立山温泉

立山温泉（たてやまおんせん）

富山県富山市（旧上新川郡大山町）に、かつて存在した歴史ある温泉地です。山田温泉、小川温泉、大牧温泉とともに「越中四名湯」の一つに数えられ、古くは「立山下温泉」や「多枝原温泉」とも称されました。

泉質

廃湯前のデータによれば、立山温泉の泉質はアルカリ性単純温泉、弱アルカリ性低張性泉、炭酸水素塩泉でした。源泉は毎分73リットルが自然に湧出し、泉温は62℃、pH値は8.4、溶存物質総量は481.3mg/kgを示していました。

ただし、1908年刊行の「立山案内」には、当時の廃湯前の情報として異なる泉質が記載されています。それによれば、泉質は硫質泉で、泉温は摂氏55～56度でした。効能としては、胃病、関節疾患、腺症、神経痛、痛風、打撲、梅毒、瘡毒などに顕著な効果があると記されています。このように、時期によって泉質に関する記録が異なる点も興味深い要素です。

地理

立山温泉は、壮大な立山カルデラの西端に位置していました。この特殊な立地が、その後の温泉地の運命に大きな影響を与えることになります。

歴史

立山温泉の歴史は古く、1580年（天正8年）に深見六郎右衛門によってその存在が知られるようになったと伝えられています。1584年（天正12年）には、武将である佐々成政が入湯したという記録も残っています。温泉地として本格的な整備が進んだのは、1770年（明和7年）以降のことです。その優れた効能に加え、立山信仰における重要な拠点となったことから、江戸時代には大変な賑わいを見せました。加賀藩も温泉地の振興に力を入れ、新たな道の開削や女人禁制の撤廃などにより、湯治客はさらに増加しました。

しかし、立山カルデラ内の不安定な地形は温泉地にとって常に脅威でした。1858年（安政5年）に発生した飛越地震に伴う大規模な土石流により、温泉街は壊滅的な被害を受けました。その後、1869年（明治2年）頃に新たな源泉が発見され、温泉地は再び復興の道を歩み始めます。

明治時代に入り、立山への新たな道が開通したり、立山参拝が盛んになったりしたことで、温泉の利用者数は増加しました。さらに、1906年には立山砂防事務所が温泉地内に設置されたことで、1941年に水谷平へ移転するまでの間、温泉側が事務所の業務の一部を代行するなど、砂防事業との連携によって繁栄期を迎えました。最盛期には、大小様々な旅館や自炊施設、宿舎、事務所、店舗、発電所、浴室、薬師堂など、多くの建物が立ち並んでいたと記録されています。

1944年に立山砂防の工事が一時中止されると、温泉も1950年まで営業を休止しました。そして、1969年（昭和44年）の豪雨で温泉への道や施設の一部が再び被災し、決定的な要因となったのは1970年（昭和45年）の立山黒部アルペンルートのバス路線開通でした。この新しい交通網の整備により、利用客の動向が変化し、温泉地は維持が困難となり、最終的に1973年（昭和48年）に廃湯となりました。

廃湯後も、かつての温泉跡から西へ約2km離れた水谷平には、立山砂防の工事関係者向けの露天風呂「天涯の湯」が存在します。ただし、このエリアは一般の立ち入りが制限されており、通常は利用できません。しかし、立山カルデラ砂防博物館が定期的に開催する見学会に参加すると、後から設置された足湯を利用することが可能です。

近年では、2017年度に富山県が旧温泉地付近で地熱開発の可能性を探るための掘削調査を行うことを発表するなど、新たな動きも見られます。

著名人の訪問

明治時代には、立山温泉に立ち寄った著名な外国人たちがいます。

1869年：アーネスト・サトウ
1889年：パーシバル・ローウェル
1891年：ヨハネス・デレーケ
1893年：ウォルター・ウェストン

薬師如来とのかかわり

江戸時代、温泉の経営者が薬師如来を祀る夢を見たことがきっかけで、薬師堂が建立されたと伝わっています。以来、経営者が代わっても薬師如来は丁重に祀られ続けました。戦前には、「さしま」と呼ばれる導師が薬師堂に常駐し、温泉客に薬師如来の縁起や浄瑠璃世界の話を巧みに語り聞かせ、人々の信仰を深めていました。廃湯から時を経て、1984年には地元の有志たちの手によって、飛越地震の犠牲者らを慰めるための慰霊碑が薬師堂の跡地に建立されています。

関連作品

小説家・新田次郎の代表作『剱岳 点の記』に立山温泉が登場します。作中では、測量隊がこの温泉に宿泊しようとする場面が描かれています。なお、作者である新田次郎自身も、廃湯後の立山温泉跡地の調査のために現地を訪れた経験があるそうです。

アクセス

現在、立山温泉跡地を含む立山カルデラ一帯は、国土交通省による砂防工事エリアであり、危険防止のため一般の立ち入りが厳しく制限されています。そのため、かつての温泉地を訪れるには、立山カルデラ砂防博物館が主催する定期的な見学会などに参加する必要があります。

一般的なアクセスとしては、富山地方鉄道の岩峅寺駅から徒歩約10分の場所に「立山山麓温泉」があり、こちらは現在も利用可能です。

関連項目

* 立山山麓温泉

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