劉宗周

劉宗周（りゅう そうしゅう、1587年 - 1645年）は、中国明末の儒学者であり、陽明学を深く研究し、独自の思想を展開した人物です。字は起東、号は念台といい、学生からは蕺山（しゅうざん）先生と呼ばれ、敬愛されました。元の名は憲章といい、紹興府山陰県（現在の浙江省紹興市越城区）の出身です。

生涯

劉宗周は劉坡の遺腹の子として生まれました。幼少期は貧しい生活を送る中で、母方の祖父である章穎の家で育てられました。章穎の家系は浙東学派と関わりが深く、その影響が劉宗周の思想形成にも影響を与えたと考えられます。特に会稽章家の子孫には、同じく浙東学派の章学誠がいます。

24歳で進士に及第し、行人に任じられました。その後、26歳の時に王陽明の学友であった湛若水の弟子である許孚遠に師事し、陽明学への理解を深めていきました。34歳の時には、山陰県の北にある蕺山に書院を開き、講学を始めました。この書院は、多くの学生が集まる教育の場となり、彼の思想が広まる拠点となりました。

政治の世界にも関わり、44歳の時、礼部主事に任じられ、その後も光禄寺丞、尚宝司少卿、太僕寺少卿を歴任しました。天啓4年（1624年）には右通政にまで昇進しますが、宦官の魏忠賢によって弾劾され、官職を罷免されました。しかし、崇禎帝が即位すると、再び召され、順天府尹、工部侍郎、南京左都御史などの要職を歴任しました。55歳の時には、高攀龍の要請に応じ、東林書院で講学を行いました。

明が滅亡し、清の順治2年（1645年）に清軍が杭州を占領すると、劉宗周は抵抗の意思を示し、絶食を20日間続けた末に亡くなりました。彼の生涯は、学問と政治への強い信念と、道徳的な生き方を貫いたものでした。

思想

劉宗周の思想は、陽明学を基盤としつつ、独自の解釈を加えたものでした。理気論においては、気一元論を唱え、「天地の間に盈ちるは一気のみ」であり、「理は即ち是れ気の理、断然として気の先に在らず、気の外に在らず」と主張しました。この考えに基づき、万物は「即有即無」の気が変化してできると論じました。また、「心を離れて性なく、気を離れて理なし」と説き、心を主宰として気が性・理を貫通すると考えました。王陽明の「致良知」説を改め、「慎独」説を提唱し、「善を好み、悪を悪む」という誠意を工夫する実践学を主張しました。

劉宗周の弟子には、黄宗羲や陳確、張履祥といった著名な学者がおり、清初の学術に大きな影響を与えました。特に黄宗羲は、明末清初の激動期における社会と政治のあり方を深く考察し、後の思想家に多大な影響を与えることになります。劉宗周の思想は、単なる学問的な考察にとどまらず、現実社会における実践と道徳的な生き方を重視する点で、多くの人々に共感を与えました。

また、劉宗周の思想は、日本にも伝わり、幕末期には春日潜菴や池田草菴といった思想家に影響を与えました。彼の著作である「人譜」などは日本でも和刻され、児童啓蒙書として普及しました。これらのことから、劉宗周の思想は、中国だけでなく、東アジア全体に影響を与えたと言えるでしょう。

著作

劉宗周は多くの著作を残しました。主なものとして「周易古文鈔」「易衍」「易図説」「聖学宗要」「原旨」「論語学案」「学言」「人譜」「人譜類記」「道統録」「陽明伝信録」「証人社約言」などがあります。これらの著作は、『劉子全書』と『劉子全書遺編』にまとめられています。これらの著作を通じて、彼の思想や学問に対する姿勢が後世に伝えられています。

劉宗周は、学問のみならず、実践的な道徳を重視し、清廉潔白な生き方を貫いた人物として、後世に尊敬されています。彼の思想は、現代においても、私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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