竹林の七賢

竹林の七賢：魏晋時代の自由奔放な文人たち

3世紀後半から4世紀初頭、中国の魏から晋へと移り変わる動乱期に、老荘思想を基盤とした独特の文化を築いた七人の文人がいました。彼らが、後世に「竹林の七賢」として知られる存在です。阮籍、嵆康、山濤、劉伶、阮咸、向秀、そして王戎、この七人はそれぞれ独自の個性と才能を持ち、政治や社会への鋭い批評精神、そして自由奔放な生き様で知られています。

七賢それぞれの個性と才能

彼ら七賢は、必ずしも常に一緒にいたわけではなく、個々の才能と個性で知られています。阮籍は、その奔放な言動と詩作で有名で、グループ内における指導者的存在でした。『世説新語』には、彼の逸話が数多く収録され、後世の文人たちに大きな影響を与えました。嵆康は優れた文章家であり、その才能は高く評価されていましたが、権力闘争に巻き込まれ、悲劇的な最期を遂げます。山濤と王戎は、政治の世界で活躍し、高い地位にまで上り詰めた人物です。劉伶は酒を愛し、自由奔放な生活を送ったことで知られ、阮咸は音楽の才能に秀でていました。向秀は詩文に優れ、阮籍と親交が深かったことで知られています。王戎は実務的な才能に長け、政治家として成功しました。

清談と社会への批判

魏から晋へと時代が移り変わる中、彼らは『世説新語』などに記録されているように、老荘思想に基づいた自由な議論、いわゆる「清談」を盛んに行いました。この清談は、単なる教養の交流というだけでなく、当時の腐敗した政治や社会に対する批判の場でもありました。彼らの自由奔放な言動は、一見すると現実逃避のようにも見えますが、実際には、権力者への抵抗であり、命がけの批判行為だったと言えるでしょう。嵆康の死は、その危険性を端的に示しています。彼らが隠者と呼ばれることもありますが、多くは役職に就いており、中には三公の地位にまで上り詰めた者もいました。司馬氏との縁戚関係にある者も少なくありませんでした。

後世への影響と誤解

現代日本では、「竹林の七賢」は、どこかファンタジー的で現実離れした、お気楽なイメージで語られる傾向があります。しかし、彼らの生き様は、当時の厳しい社会情勢の中で、命を懸けて信念を貫いたものでした。彼らの言動は、悪意と偽善に満ちた社会に対する深い憤りであり、同時に、その意図を巧みに隠す韜晦の術でもありました。彼らの生き様は、現代社会においても、権力や既成概念への抵抗、そして自由な思想の大切さを教えてくれるでしょう。魏晋時代の清談文化は、彼ら七賢によって大きく発展し、その後の中国文学にも多大な影響を与えました。しかし、彼ら七賢以後、社会に対する批判的な視線は薄れ、詩文はより華美な方向へ流れていったとされています。

関連作品

「竹林七賢」 王順鎮著 實學社（台湾）

関連項目

世説新語
* 江左七賢

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