王戎

王戎：才能と矛盾に満ちた生涯

王戎（おうじゅう、234年～305年）は、中国三国時代から西晋にかけて活躍した傑物です。政治家として、また軍人として、そして竹林の七賢の一員として、その名を知られています。しかし、彼の生涯は、輝かしい功績と、時に矛盾するような行動によって彩られています。

幼少期の才能と異色の経歴

王戎は、現在の山東省臨沂市蘭山区に生まれました。幼少期よりその才能は群を抜いており、魏の皇帝曹叡や、文人として名高い阮籍からも高く評価されていました。阮籍は王戎の父とも親交があり、20歳も年下の王戎との交流を好んだと伝えられています。

父の死後、王戎は香典を一切受け取らなかったという逸話は有名です。これは彼の名声を高めることにも繋がりました。体格は小柄ながら堂々とした振る舞い、礼節にこだわることのない気さくな人柄、酒を嗜みながら友人らと語り合う姿は、後の彼の人物像を理解する上で重要な要素となっています。

蜀征伐と呉の滅亡

王戎は、蜀征伐を企てた鍾会に相談を持ちかけられた際、道家の思想に基づいた見解を示し、鍾会の命運を見通したとも言われています。この洞察力は識者から高く評価されました。

その後、王戎は魏・晋両王朝に仕え、様々な要職を歴任しました。荊州刺史在任時には役人を私用したため免職の危機に陥りましたが、罰金で済まされました。呉の歩闡が帰順した際にも、羊祜による処罰を免れたものの、羊祜を批判したことで、世間に「羊祜は徳がない」という噂が広まることにも繋がりました。

呉の侵攻（279年）では、武昌に侵攻し、王濬と共に呉の滅亡に貢献しました。その功績により安豊亭侯の爵位を得、呉の人々にも恩寵を施し、多くの信頼を得て侍中にまで昇進しました。しかし、贈賄の疑いをかけられるなど、常に政治的駆け引きの渦中にありました。

晩年と複雑な人物像

『晋書』は、王戎について、特別な能力はなかったものの、多くの功績が積み重なり、高官に上り詰めたと評しています。光禄大夫、吏部尚書まで昇進したものの、母の喪に服するために官を辞しました。親孝行な面を見せる一方で、礼節を重んじない性格も持っていました。

武帝の死後、楊駿が実権を握ると太子太傅に任命され、その後も光禄大夫、中書令などを歴任しました。「甲午の制」と呼ばれる官吏登用制度を開始したものの、不正の温床となったと批判されるなど、複雑な評価を受けています。

晩年は司徒にまで上り詰めましたが、娘婿の裴頠に連座して免職。八王の乱の混乱期には、政治的な影響力を積極的に行使することはなく、その結果、危険を回避しました。305年、72歳で亡くなりました。

吝嗇家としての王戎

王戎は、名声の危険性を早くから察知し、吝嗇家の振る舞いを演じることで、権力者からの嫌疑を避けようとしたとされています。父の死後、多額の香典を一切受け取らなかったのは、その一例です。しかし、その吝嗇ぶりは度を越えており、『世説新語』には、李の種に穴を開けて売る、甥の結婚祝いに着物を贈り後で代金を請求するなど、数々の逸話が記されています。

矛盾に満ちた人物像

王戎の生涯は、並外れた才能と功績、そして吝嗇家として知られる矛盾した一面を併せ持ちます。優れた政治家・軍人として歴史に名を刻んだ一方で、人間味あふれる、時に滑稽なエピソードも数多く残されています。これらの逸話を総合的に捉えることで、より立体的な王戎像が見えてくるのではないでしょうか。

参考

小松英生『『晋書』王戎伝訳注』

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