笑福亭松鶴 (5代目)

五代目笑福亭松鶴：上方落語の復興に生涯を捧げた巨匠

五代目笑福亭松鶴は、1884年大阪市に生まれ、上方落語史に燦然と輝く名跡を継承した偉大な落語家です。本名・竹内梅之助。代々大工を営む家に生まれた彼は、16歳で素人落語会に参加、後に四代目笑福亭松鶴に入門し、光鶴を名乗って落語家としての道を歩み始めました。

芸道修行と流派を渡り歩く日々

入門後は軍隊への入隊を経て、三友派を拠点に活躍。その後、様々な流派を転々とし、神戸で活躍していた時期には、六代目林家正楽の娘と駆け落ち結婚、長女と次男をもうけました。帰阪後は新桂派を経て再び三友派に復帰。1918年には二代目笑福亭枝鶴を襲名しました。

吉本興業と上方落語復興への貢献

1921年、花月派と反対派の合流、翌年には三友派との合流を経て吉本興業に入社。1935年には四代目松鶴から五代目笑福亭松鶴の名跡を襲名、盛大な襲名披露興行を行いました。しかし、吉本興業が漫才中心へと傾倒していく中で、上方落語の衰退を危惧した松鶴は、1936年、私財を投じて『上方はなし』という雑誌を創刊、上方落語の振興に尽力しました。

そして1937年、吉本興業を離脱。二代目桂米之助らと共に、上方落語の復興運動を本格的に展開。自宅を「楽語荘」と名付け、多くの若手落語家の育成に力を注ぎました。『上方はなし』は1940年に廃刊となりますが、その活動は、戦時下の困難な状況下においても続き、落語を愛する人々にとって貴重な存在であり続けました。1943年には吉本興業の高座に復帰しましたが、戦災によって大阪が被災する事態に遭遇しました。

戦後と晩年

終戦後も、いち早く「楽語荘」を再開し、上方落語の会を積極的に開催。文楽座での興行成功や戎橋松竹の開館など、戦後の上方落語界を牽引する役割を果たしました。1949年には関西演芸協会副会長に就任しましたが、翌年、66歳で死去しました。

息子の六代目松鶴の証言によると、臨終の際には得意ネタ「天王寺詣り」を語り始め、芸の継承を最後まで願っていたといいます。普段は温和な人柄で知られ、漫才師の横山エンタツ・花菱アチャコにも温かい気遣いを見せるなど、人間性にも優れていました。また、小道具を大切に扱い、戦前の上方落語界に関する貴重な資料を数多く残していることでも知られています。

弟子と後継者

松鶴は「来る者拒まず、去る者追わず」をモットーに、多くの弟子を受け入れました。その精神は六代目松鶴にも受け継がれ、多くの落語家を育成する土壌が築かれました。代表的な弟子には、六代目笑福亭松鶴、二代目笑福亭松之助らがいます。

楽語荘と上方落語への貢献

松鶴が設立した「楽語荘」は、現在「平成楽語荘」として上方落語協会によって運営されており、上方落語の貴重な史料の保存・公開が行われています。五代目笑福亭松鶴の遺志を受け継ぎ、上方落語の未来を担う活動が続けられています。彼の功績は、上方落語の復興と発展に大きく貢献し、現代の上方落語界の礎を築いたといえるでしょう。

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