笑福亭福松

笑福亭 福松

笑福亭 福松は、上方落語において歴史を持つ名跡の一つです。これまでに三人の噺家がこの名を継承しましたが、現在は後継者が現れておらず、空き名跡となっています。

初代 笑福亭 福松

安政5年（1858年）に生まれ、明治37年（1904年）10月14日に47歳でこの世を去った初代福松は、本名を国島 福松といいました。大阪府交野市梅が枝の銅細工師の家に生まれ、母は産婆を営んでいました。幼い頃から芸事に親しみ、軽業師や歌舞伎俳優に弟子入りしましたが、自身の性に合わず、数え7歳となった元治元年（1864年）、初代桂文枝門下の桂梅丸（または桂慶治）に師事します。翌年には二代目笑福亭松鶴（後の二代目笑福亭圓笑）の門下に移り、本名に由来する「福松」を名乗るようになります。

子役時代からその才能を発揮し、世間から高い評価を得ました。青春時代は京都の笑福亭を拠点に約10年間真打として活躍しましたが、芸妓との関係が原因で大阪に戻ることになります。明治26年（1893年）10月には、桂派に対抗するため、二代目月亭文都、三代目笑福亭松鶴、二代目桂文團治らと共に三友派を結成し、派の主要な演者として最後までその活動を支えました。三友派の華やかな芸風を体現するような高座で、人気と実力の両面で頂点を極め、法善寺紅梅亭の席亭であった原田ムメから特に寵愛を受けました。さらに、松屋町神明社内にあった吉福亭の経営にも携わるなど、興行における手腕も見せ、三友派の看板噺家として活躍しました。

明治36年（1903年）には、約20数名の門弟を引き連れて上京し、睦会の主要な寄席に出演するなど、活動の場を広げます。この頃から笑福亭松鶴襲名の準備を進めていたとされますが、翌明治37年（1904年）に急逝しました。三回忌には功績を称える銅像が建立されましたが、第二次世界大戦中の金属供出により現在は失われています。墓所は一心寺にあります。

十八番は『紙屑屋（浮かれの屑より）』。また、踊りの名手としても知られ、『大文字屋』を得意としていました。

多くの弟子を育てており、主な弟子には以下のような人物がいました。

笑福亭福二
二代目笑福亭福松
笑福亭璃喜松
初代三遊亭圓若
笑福亭松光
笑福亭勢楽
三代目笑福亭福松
笑福亭福寿
桂福楽
笑福亭福助
笑福亭小福松
笑福亭福我（後の初代笑福亭福團治）

二代目 笑福亭 福松

明治元年（1868年または1869年）に生まれ、昭和20年（1945年）1月に亡くなった二代目福松は、本名を河合福三郎といい、三代目笑福亭圓笑の実弟にあたります。生家は大阪島之内で「魚源」という料理屋を営んでいました。

当初は明治19年（1886年）に三代目笑福亭松鶴に師事し、里キ松、璃幸、二代目璃鶴と改名しました。その後、明治35年（1902年）頃に初代福松の門下に入り、福圓（本来は三代目にあたる）を名乗ります。大正2年（1913年）には東京に移り、門下は不明ながら左文治と称しました。後に京桂派に移籍し、大正3年（1914年）9月に福松郎、さらに大正7年（1918年）には二代目笑福亭福松を襲名しました。

主に神戸や京都の寄席を活動の場としました。晩年には五代目笑福亭松鶴が主宰した「楽語荘」の同人となり、「上方はなしを聴く会」の高座にも出演しています。芸風は派手さはなく、地味であったと伝えられています。

得意ネタは『味噌蔵』『夢八』『狸茶屋』などで、余興の踊りでは『逢いたさ』を愛嬌たっぷりに披露していました。また、自宅に泥棒が入った際、盗まれた着物を着ている人物を偶然発見し、交番の前で「ドロボー！」と叫んで捕まえたという逸話が残されています。娘は五代目桂文吾（富士村彦次郎）の後妻となりました。

三代目 笑福亭 福松

明治17年（1884年）に生まれ、昭和37年（1962年）10月25日に亡くなった三代目福松は、本名を山田 福太郎といいました。二代目桂文之助の実子です。幼い頃、3～4歳頃（明治21年頃）に、父の親友であった初代笑福亭福松に預けられ、「福太郎」の名で父が所属した三友派や寿々会などの寄席に出演しました。大正3年（1914年）に京桂派に移籍した際には、父が用いた二代目艶文亭かしくを名乗ります。

一時期は芸の道を離れ、舞踊家として活動していた時期もありましたが、戦後に復帰し、晩年となる昭和30年（1955年）9月には、師匠である初代の五十回忌を機に三代目笑福亭福松を襲名しました。

幼少の頃、父の高座で踊っている最中にそっと後ろに現れ、父の真似をして踊ったことが喝采を浴び、それがきっかけで子役として高座に上がるようになったといわれています。子供の頃から芸の修行を積んでいたため、踊りや三味線、胡弓、琴、鳴り物など、あらゆる諸芸に精通していました。山村流の踊りの名手としても知られ、舞踊家としては山村福彌を名乗っていました。多才でありながらも、本人は「落語が一番下手」と自称しており、高座では噺を手短に切り上げ、得意の踊りで締めることが多かったようです。噺も決して拙いわけではありませんでしたが、早口で聞き取りにくい面があり、客からの評判は芳しくありませんでした。

得意ネタは『愛宕山』『紙屑屋』などで、踊りでは『ちよかね』『大文字屋』をよく演じていました。いくつかのライブ録音が現存するほか、SPレコードにはかしく時代に吹き込んだ『やれやれ豆腐』が残されています。

世襲の芸人にありがちな一面として、若い頃から遊里に出入りし、父の弟子に横暴な態度をとるなど傲慢な振る舞いが多く、周囲との間に軋轢を生むことも少なくありませんでした。しかし、戦後の上方落語界においては「生き字引」のような存在として重んじられ、三代目桂米朝らに『地獄八景亡者戯』や『天狗さし』をはじめとする多くの貴重なネタを伝承した功績で知られています。

主な弟子には以下のような人物がいます。

初代森乃福郎
六代目桂文吾
笑福亭福三郎
笑福亭福柳
* ほか

その他、門下には文の家恋しく、文の家都枝、文の家文福、文の家速達などがいたようです。

（出典：月亭春松『落語系圖』、諸芸懇話会・大阪芸能懇話会共編『古今東西落語家事典』、桂米朝『続・米朝落語ノート』、『三集・上方落語ノート』など）

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