笑福亭松鶴

笑福亭 松鶴（しょうふくてい しょかく）

笑福亭松鶴は、上方落語において最も権威ある名跡の一つとされ、笑福亭一門においては代々宗家が受け継ぐ「止め名」として重んじられています。1996年に7代目が笑福亭松葉から追贈されて以降、この名跡は空位となっています。

名跡名の「松鶴」は、通常「しょかく」と読まれます。これは、大阪弁における長音を省略する慣習に基づく一種の読み癖であり、「鶴光」（つるこ）や「鶴瓶」（つるべ）といった読み方と同様です。しかし、古い文献の中には「しょうかく」と記されているものも見られます。実際に、4代目松鶴が吹き込んだSPレコードでは、本人が「しょかく」と名乗る音声が確認できます。

歴代の松鶴（記録に残る3代目以降）の墓所は、大阪市天王寺区にある壽法寺（紅葉寺とも呼ばれる）にあります。毎年9月5日の6代目松鶴の命日には、笑福亭一門の噺家たちが所属事務所の垣根を越えて集まり、歴代の松鶴を偲ぶ法要が行われています。

歴代の松鶴

過去には以下の噺家が松鶴を名乗っています（追贈を含む）。

2代目笑福亭松鶴（後に2代目笑福亭圓笑を襲名）
4代目笑福亭松鶴（後に笑福亭松翁を襲名）
5代目笑福亭松鶴（詳細な項目が存在）
6代目笑福亭松鶴（詳細な項目が存在し、上方落語の「四天王」の一人として知られる）
* 7代目笑福亭松鶴（生前は笑福亭松葉を名乗り、死後に追贈）

初代 笑福亭 松鶴

初代笑福亭松鶴は、1811年に生まれ、1866年に55歳で没しました。本名を桔梗屋正兵衛といいます。その経歴は、2代目笑福亭吾竹（またはその門下の吾玉）に入門後、初代笑福亭松喬（通称「火消壷」）を名乗り、後に初代松鶴を襲名したとされます。

彼は大阪新町遊郭で楊弓屋を営む傍ら、落語家としても活動しました。頭の形から「火消壷」というあだ名で呼ばれたと伝えられています。安政年間には、当時の流行歌である大津絵節の替歌で人気を博し、その名は一枚摺りや小冊子といった流行唄の記録にも多く残されています。天性の美声に恵まれ、初代桂文枝と共に上方落語の基礎を築き、その後の隆盛の端緒を開いた功績は大きいと評されています。

彼の逸話としては、寒い冬の日に、薄着で挨拶に来た同業者に自分の袷羽織を着せてやり、かつて自分が前座だった頃にその同業者から下駄の揃え方を巡って足蹴りにされたことを引き合いに出し、自らの立場が向上したことを示す皮肉な報復をした、という話が伝わっています。

初代の門下からは、後に名跡を継ぐ2代目松鶴をはじめ、2代目笑福亭松喬、2代目笑福亭松竹、笑福亭松柳、立川八百蔵といった噺家が育ちました。

3代目 笑福亭 松鶴

3代目笑福亭松鶴は、1845年に生まれ、1909年に65歳で生涯を終えました。本名は武田龜太郎です。その出自は、素人連である天狗連に属する浮世物真似師の龜丸だったとされます。26歳の頃、2代目立川三光に入門して立川光柳を名乗り、その後、桂慶治門下に移り桂慶枝と改名しました。やがて2代目松鶴に招かれて3代目松喬を名乗り、1878年には3代目松鶴を襲名します。しかし、師匠との不和から一度京都に移り、初代木鶴を名乗った期間を経て、1880年に松鶴の名に復しました。

彼は当初、上方落語界を二分する桂派の真打として活躍していましたが、後に桂派を率いる2代目桂文枝（後の文左衛門）と敵対関係にあった2代目月亭文都と親交を深めたため、文枝との間に軋轢が生じます。この対立から、1893年には文都、初代笑福亭福松らと共に新団体「三友派」の結成に参加し、その会長を務めることで桂派と袂を分かちました。しかし、1896年1月には三友派を去り、落語家から講釈師へと転身します。その後、1905年に初代福松の死去により弱体化した三友派に再び招かれ、竹山人と名を変えて復帰しました。しかし、翌年には再び三友派を離れています。講釈師としての活動期には、大阪天満宮裏の宝来亭で評判を呼びました。

3代目のトレードマークは、若くして風格を出すために剃り上げたという禿頭でした。「3代目といえば禿頭」といわれるほど、この風貌は有名でした。また、驚くほど多くの持ちネタを有していたことでも知られています。2代目旭堂南陵の証言によれば、神戸で席を共にした際、2ヶ月間毎日異なる演目を披露し続け、その数はおよそ240題にも及び、いずれも素晴らしい出来だったと伝えられています。落語家時代から講談の演目を得意としており、『三十石』『盲景清』『新粉屋新兵衛（紺田屋）』などが知られています。講釈師時代は『大塩平八郎』『一休禅師』などを得意としました。今日でも演じられる『佐々木裁き』は、佐々木顕発の逸話を基に、一休の頓知噺から着想を得て3代目が創作したものであると言われています。

3代目の門下からは、後に4代目松鶴を襲名する人物をはじめ、2代目笑福亭竹我、2代目笑福亭梅鶴、3代目笑福亭圓笑、2代目笑福亭里キ松、4代目笑福亭松喬、笑福亭松葉、5代目笑福亭松喬、笑福亭梅香（飛呂秀吉）など、多くの噺家が輩出されました。

笑福亭松鶴の名跡は、これらの偉大な先人たちによって築かれ、上方落語の歴史に深く刻まれています。現在は受け継ぐ者がいませんが、その伝統と功績は今も語り継がれています。

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