笠間杲雄

笠間杲雄：イスラーム研究の先駆者にして悲劇の外交官

笠間杲雄（かさまあきお、1885年11月 - 1945年 4月1日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の外交官です。彼は、戦前の日本において数少ないイスラーム圏に関する専門家の一人であり、その知識と経験は、当時の日本外交において重要な役割を果たしました。また、第二次世界大戦末期に発生した阿波丸事件の犠牲者としても知られています。

生い立ちと初期の経歴

笠間杲雄は、東京府東京市神田区神田末広町（現在の東京都千代田区外神田三丁目）で生まれました。富山県出身の師範学校教師で神職の野中武雄の三男として生まれ、母方の笠間家を継ぎ、石川県金沢で育ちました。第一高等学校を経て、1909年に東京帝国大学法科大学政治科を卒業。高等文官試験に合格し、鉄道院参事として米国に駐在しました。この時期から、国際的な視野を養い、外交官としての基礎を築きました。

外交官としての活躍

1918年、笠間は外務省参事官兼外務事務次官としてパリ講和会議に参加し、平和条約実施委員としてフランスに滞在しました。その後、1922年には外務省情報部第2課長に就任。1923年、在イタリア日本大使館一等書記官としてトルコに出張し、日本政府外交担当者として駐在しました。さらに、1924年には在ルーマニア日本公使館一等書記官、1926年には在フランス日本大使館参事官を歴任し、ヨーロッパ各地で外交官としての経験を積みました。

1927年、笠間は国際労働理事会日本政府代表となり、以来国際労働機関の政府代表としてジュネーブに駐在しました。1928年には、第2回国際移民会議日本代表を務め、ペルシャ公使、ポルトガル公使を歴任し、1938年に退官しました。これらの経験を通じて、彼は国際的な問題に対する深い理解と、多様な文化に対する尊重の念を育みました。

太平洋協会と南方調査

退官後の1938年、笠間は国策研究機関「太平洋協会」の常務理事に就任しました。太平洋戦争（大東亜戦争）開戦後の1942年には、陸軍省軍属・陸軍司政長官に任じられ、南方占領地の調査事業のうち、太平洋協会が分担していた旧英領ボルネオに赴くことになりました。1943年1月からは、ボルネオ守備軍司令部付調査局長を務め、現地の調査・研究に尽力しました。1945年3月には陸軍省軍務局付となりましたが、その直後の4月1日に、輸送船阿波丸にて日本へ帰国する途中、米潜水艦によって阿波丸が撃沈され、悲劇的な死を遂げました（阿波丸事件）。

イスラーム研究の先駆者

笠間杲雄は、外交官としての活動のかたわら、イスラーム文化に関する研究を深めました。彼は、著書を通じて、その知識と理解を広めようと努めました。特に、『沙漠の国ペルシアアラビアトルコ遍歴』（1935年）、『回教徒』（1939年）などの著書は、当時の日本社会において、イスラーム圏への理解を深める上で重要な役割を果たしました。また、これらの著書は、現在においても、その学術的な価値を失っていません。

著書

笠間杲雄は、その生涯で数々の著作を出版しました。これらの著作は、彼の研究成果を伝えるだけでなく、当時の日本の知識人の知的関心のあり方を示す上で重要な資料となっています。以下は、彼の主な著書です。

『沙漠の国ペルシアアラビアトルコ遍歴』（岩波書店、1935年）
『回教徒』（岩波新書、1939年）
『青刷飛脚』（六興商会出版部、1941年）
『大東亜の回教徒』（太平洋協会編「太平洋図書館」、六興商会出版部、1943年）
『〈戦前戦中〉外交官の見た回教世界』（書肆心水、2018年）
『波斯より土耳古まで』（文明協会、1926年、縫田栄四郎・志賀重昂・山岡光太郎との共著）
『南方の音楽・舞踊』（太平洋協会編「太平洋図書館」、六興商会出版部、1942年、田辺尚雄・黒沢隆朝・桝源次朗との共著）
『ペルシヤの文化と経済』（述、東京商工会議所、1935年）

栄典

笠間杲雄は、その功績が認められ、数々の栄典を授与されました。

1920年（大正9年）9月7日 - 勲六等瑞宝章
1929年（昭和4年）9月28日 - ポーランド星章付コマンドールオドロゼニアポルスキー勲章
1943年（昭和18年）10月9日 - 勲二等瑞宝章