第一次コンゴ戦争

第一次コンゴ戦争は、1996年11月から1997年5月にかけて、当時のザイール（現在のコンゴ民主共和国）で発生した紛争です。32年間ザイールを統治したモブツ・セセ・セコ政権が打倒され、国名がコンゴ民主共和国へと変わるきっかけとなりました。この戦争は、ザイール国内の政治的混乱に端を発しましたが、隣国ルワンダで起きたルワンダ虐殺後の難民危機と深く関連していました。

背景

モブツ政権の失政

冷戦時代、アメリカ合衆国の支援を受けていたモブツ大統領の長期政権下で、ザイールは経済的に衰退しました。1997年にモブツ政権が崩壊するまでの32年間で、国内総生産は65%も減少しました。冷戦終結後、アメリカはモブツへの支援を打ち切り、民主化の波が国内外からザイールへと押し寄せました。モブツは一党独裁制の終焉を約束しましたが、大規模な改革を拒んだため、国内外の支持を失いました。経済システムへの不信感から、国民は闇経済に依存するようになり、ザイール軍（FAZ）は組織維持のために国民を敵と見なさざるを得ない状況に追い込まれました。

民族間の緊張

ザイール東部では、数世紀にわたって民族間の緊張が続いていました。特に、土着の農耕民族と、ルワンダから移住してきた半遊牧のツチ族との対立が深刻でした。ツチ族の一部は、コンゴ自由国設立以前の1880年代から東部に居住していましたが、ベルギー植民地時代には労働力として強制的に移住させられました。1959年のルワンダ革命でフツ族が優勢になると、新たなツチ族の流入が起こりました。1960年の独立までに流入したツチ族はバニャムレンゲと呼ばれ、市民権を与えられました。独立後の流入者はバニャルワンダとして知られましたが、ザイールでは両者は区別されず、外国人として扱われることが多くありました。

1965年にモブツ政権が成立すると、少数民族であるバニャムレンゲを優遇することで、多数派民族による反政府活動を抑制し、東部支配の基盤としようとしました。しかし、この政策は民族間の緊張を悪化させ、各地で紛争が発生しました。1981年には市民権が制限され、バニャムレンゲとバニャルワンダの市民権と参政権が剥奪されました。

ルワンダ紛争と虐殺

1990年代初頭、バニャムレンゲはウガンダを拠点とするツチ族中心の反政府組織、ルワンダ愛国戦線（RPF）との連携を深めました。1994年のルワンダ虐殺は、第一次コンゴ戦争の直接的な引き金となりました。100日間に及ぶ虐殺で、数十万人のツチ族とフツ族の穏健派がフツ族過激派によって殺害されました。虐殺後、約150万人のルワンダ難民がザイール東部に流入し、その中には虐殺を逃れた人々だけでなく、ルワンダ愛国戦線による報復を恐れたフツ族過激派も含まれていました。彼らはザイール東部にキャンプを設け、ツチ族難民やバニャムレンゲを攻撃し、ルワンダの新政府を打倒して帰還することを目指しました。モブツ政権は「元虐殺者」を制御できず、ルワンダへの侵攻を支援していたため、ルワンダの介入を招くことになりました。

戦争の勃発と展開

緊張の高まりとザイール政府の統制の喪失を受けて、ルワンダはザイール東部への介入を開始しました。1996年8月31日、ルワンダ軍とザイール軍の特殊部隊が交戦し、バニャムレンゲの反乱が始まりました。この反乱は、ルワンダ国防軍がザイールのツチ族を雇って扇動したものでした。バニャムレンゲの反乱の初期目標は、キヴ州の奪還とフツ族過激派との戦闘でしたが、モブツ政権に対する広範な民衆の不満から、反乱は全国的な革命運動へと発展しました。

バニャムレンゲの部隊は他の民兵と合流し、ローラン・カビラを指導者とするコンゴ・ザイール解放民主勢力連合（AFDL）が結成されました。AFDLはルワンダの支援を受け、着実に勢力を拡大していきました。

外国勢力の介入

ルワンダ、ウガンダ、アンゴラなど、周辺国がそれぞれの思惑から第一次コンゴ戦争に介入しました。

ルワンダ: AFDLの根拠地として部隊を編成し、自国軍も派兵しました。ザイールを拠点とする「虐殺者」に対する防衛、モブツ政権の打倒、そして自国の安全保障を目的としていました。
ウガンダ: ルワンダ愛国戦線と同盟関係にあり、AFDLを支援しました。元「虐殺者」が活動する東部に反乱軍を留めておくことを目指していました。
* アンゴラ: UNITAに対するモブツ政権の支援を断ち切るため、AFDLを支援しました。

戦争の終結とその後

AFDLは1997年5月に首都キンシャサを制圧し、モブツ大統領は国外へ逃亡しました。ローラン・カビラが大統領に就任し、国名をコンゴ民主共和国に変更しました。

しかし、カビラ政権もまた国民の期待を裏切り、経済は悪化し、政府の腐敗が蔓延しました。カビラはかつての同盟国との関係を断ち切り、1998年にはルワンダ軍を始めとする外国軍の撤退を要求しました。第一次コンゴ戦争を引き起こした要因は解消されず、東部の民族間の緊張は高まったままでした。その結果、1998年8月には第二次コンゴ戦争が勃発することになります。

第一次コンゴ戦争は、コンゴ民主共和国の歴史において重要な転換点となりました。しかし、紛争の根本的な原因は解決されず、その後の紛争の種を残すことになりました。

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