第一高等学校・東京大学弁論部

東京大学を拠点とする第一高等学校・東京大学弁論部は、学内で活動する唯一の弁論団体です。その起源は明治時代に遡り、1889年（明治22年）に発足した旧制第一高等学校弁論部の伝統を継承しています。戦後の新制東京大学が設立されて以来、主に駒場キャンパスを活動の拠点としてきました。

弁論部は、歴史を通じて言論の府としての役割を果たしてきました。沿革を見ると、1911年（明治44年）には、当時の弁論部大会において作家の徳富蘆花が有名な『謀反論』の講演を行うなど、社会に影響を与える言論の場を提供してきたことがわかります。その後、1977年（昭和52年）には法学部緑会に加盟し、本郷キャンパスにも部室を構え、活動範囲を広げています。また、1979年（昭和54年）からはOB会誌である「縦の論壇」を毎年発刊しており、卒業生と現役部員との連携を深め、議論の記録を残しています。

現代における主な活動内容は、伝統的な弁論の練習・実践に加え、多角的な視点や論理的思考力を養うためのディベート、そして幅広い知識を吸収するための読書会を柱としています。年間を通じて、学生弁論界において権威ある大会とされる「東京大学総長杯争奪全国学生弁論大会」や、大学祭である五月祭に合わせて開催される「五月祭記念弁論大会」を主催しており、全国の学生に自身の考えを社会に問いかける機会を提供しています。

この弁論部は、日本の政界、官界、学術界、文化界など、社会の様々な分野に数多くの有為な人材を輩出してきたことでも知られています。政治家としては、内閣総理大臣を務めた芦田均氏をはじめ、前田多門氏、鶴見祐輔氏、橋本龍伍氏といった元大臣経験者、河上丈太郎元日本社会党委員長、前尾繁三郎元衆議院議長など、多数の国会議員や政界の重鎮を輩出しています。現職の国会議員では、村上誠一郎氏や古川元久氏、小森卓郎氏、三谷英弘氏らがOBとして名を連ねます。また、阿部孝夫元川崎市長、佐藤孝弘山形市長、古田肇岐阜県知事といった地方自治体の首長経験者や現職知事もOBに含まれます。

官界においても、日本国憲法の立案に関わった入江俊郎元法制局長官を筆頭に、齋木昭隆元外務事務次官、太田充元財務事務次官、中原広元国税庁長官、荒井寿光元通商産業審議官、本田勝元国土交通事務次官など、中央省庁の事務方トップや要職を歴任したOBが多数います。

学術界では、経済学者で東京大学総長を務めた矢内原忠雄氏、初代広島大学長で文部大臣も務めた経済学者の森戸辰男氏、政治学者の蠟山政道氏や福田歓一氏、坂本義和氏、社会学者の富永健一氏など、各分野の第一線で活躍した研究者がOB・OGに名を連ねています。現在も、国際法学者の寺谷広司氏、政治学者の五百籏頭薫氏、法学者の中山信弘氏、歴史学者の伊川健二氏など、多くの現役大学教授がOBとして弁論部の活動を見守っています。

文化人・実業界では、小説家の野村胡堂氏や北康利氏、経済評論家の久水宏之氏、ジャーナリストの松本仁一氏、宇野郁夫元日本生命会長、高倉透三井住友トラスト・ホールディングス社長などが活躍しています。エンジェル投資家の瀧本哲史氏や、元NHKアナウンサーの小正裕佳子氏もOB・OGであり、その影響力は多岐にわたります。

OB・OG会である「縦の会」には、第一高等学校時代からの卒業生から現在に至るまで、幅広い世代のOB・OGが参加しており、現役部員の活動を支え、交流を深めています。このように、第一高等学校・東京大学弁論部は、130年以上にわたる長い歴史の中で、常に社会と向き合い、言論を通じて問題提起を行い、そして各界に有能なリーダーを送り出してきた伝統と実績を持つ団体であり、今後も日本の公共言論の発展に貢献していくことが期待されています。

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