第五共和国 (大韓民国)

大韓民国第五共和国：軍事政権から民主化への過渡期

1980年から1988年まで続いた大韓民国の第五共和国は、全斗煥将軍による軍事クーデターによって誕生し、民主化への移行によって終焉を迎えた激動の時代でした。この期間は、政治的弾圧と経済発展、国際的な注目と国内の抗争が複雑に絡み合う、韓国現代史において重要な転換期と言えるでしょう。

成立：軍事クーデターと民主化運動の高まり

1979年10月26日、朴正煕大統領暗殺事件を契機に、崔圭夏大統領が後任となりました。しかし、全斗煥将軍率いる新軍部は12月12日のクーデターで実権を掌握します。このクーデターは、民主化を求める市民社会からの強い抵抗に直面しました。大学生や労働組合による抗議活動は、大規模デモへと発展。この状況を受け、全斗煥は1980年5月17日、戒厳令を発布し、民主化運動を弾圧。金大中、金鍾泌といった有力政治家も拘束されました。特に、5月18日に発生した光州事件は、軍による徹底的な弾圧が国際的な批判を招く結果となりました。

崔圭夏大統領の辞任後、全斗煥は1980年8月27日、第11代大統領に就任。10月27日には憲法改正案が国民投票で可決され、大統領の任期を7年に、再選を禁止する第五共和国憲法が制定されました。1981年3月3日、全斗煥は第12代大統領に就任し、第五共和国が本格的に始まりました。

統治機構：大統領中心主義と強力な権限

第五共和国の統治機構は、大統領中心制を基盤としながらも、議院内閣制の要素を取り入れていました。大統領は国務総理を任命する際に国会の同意を必要とし、国会が国務総理の解任決議を可決した場合、国務総理と国務委員全員が解任されました。政府にも法案提出権が認められました。

大統領には、非常措置権や国会解散権、国民投票付議権など、強力な権限が集中していました。大統領選挙は、間接選挙によって行われました。大統領の任期は7年で、再選は禁止されました。

政治：外交的成功と国内の抗争

第五共和国は外交面では成功と困難の両方を経験しました。1988年ソウルオリンピックの開催決定は大きな外交的成果でした。しかし、1983年の大韓航空機撃墜事件は、ソ連との関係悪化や国内での大規模デモを引き起こしました。

対北朝鮮関係は緊張と緩和を繰り返しました。1983年のラングーン事件は南北関係を悪化させましたが、1985年には離散家族の相互訪問が実現しました。しかし、1987年の大韓航空機爆破事件は再び関係を険悪化させました。

対日関係では、1983年に中曽根康弘首相の訪韓、1984年には全斗煥大統領の訪日が実現。経済面では、日本からの円借款による支援を受けました。

内政面では、経済発展を達成しましたが、軍事クーデターによる政権掌握は国民の反発を招きました。全斗煥政権は「正義社会の具現」をスローガンに掲げ、3S政策（スポーツ、セックス、スクリーン）によって国民の関心を政治からそらそうと試みました。しかし、光州事件の真相解明や人権弾圧、権威主義的な統治への批判は、民主化運動の高まりにつながりました。

終焉：6月抗争と民主化への移行

1987年6月、朴鍾哲拷問致死事件と李韓烈の死亡事件をきっかけに、大規模な民主化運動である6月抗争が勃発しました。この抗争を受け、与党の盧泰愚大統領候補は6・29民主化宣言を発表。1988年の民主的な大統領選挙と憲法改正を約束し、第五共和国は終焉を迎えました。第五共和国は、軍事政権から民主化への過渡期として、韓国現代史に大きな足跡を残しました。その歴史的意義は、民主主義の確立への過程と、その過程での苦悩と葛藤を理解する上で非常に重要です。

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