第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン

第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン：MTV時代のイギリス音楽隆盛

1982年から1986年にかけて、アメリカ合衆国の音楽シーンはイギリスのアーティストたちの急激な台頭という、かつてない現象を経験しました。この現象は「第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン」と呼ばれ、1960年代のビートルズ旋風を彷彿とさせました。しかし、第2次インヴェイジョンは、前者とは異なる背景と要因を持っていました。

背景：パンク、ニューウェイヴ、そしてMTV

1970年代後半から80年代前半にかけて、イギリスの音楽シーンではパンク・ロックやニューウェイヴが革命を起こしていました。ダイアー・ストレイツやポリスといったアーティストがアメリカで成功を収め始め、その波は徐々に大きくなっていきました。しかし、真の転換期となったのは1981年8月1日、ケーブルテレビの音楽専門チャンネルMTVの開局でした。

それまでアメリカにおけるミュージックビデオは、普及率が低く、質も低く、限られたアーティストしか制作していませんでした。しかし、MTVの登場により、状況は一変しました。MTVは、既にイギリスで制作された、洗練された映像表現を駆使したミュージックビデオを大量に放映しました。これにより、視覚的な魅力と音楽の融合という新たな音楽体験が、アメリカ人視聴者に提供されました。特に、バグルスの「ラジオ・スターの悲劇」はMTVで最初に放送されたミュージックビデオとして有名です。

MTVは当初、限られた地域でのみ視聴可能でしたが、視聴可能地域では、放送されたアーティストのレコード売上やラジオのリクエストが急増するなど、大きな影響力を持つようになりました。また、ロサンゼルスのラジオ局KROQ-FMが「Rock of the '80s」というラジオフォーマットを開始し、新たな音楽の潮流を後押ししました。さらに、ダンスチャートでも、イギリス勢の台頭が顕著になり、アメリカ音楽界の優位性を揺るがす兆候が見えていました。

インヴェイジョン：チャート制覇と文化現象

1982年7月、ヒューマン・リーグの「愛の残り火」がBillboard Hot 100で3週間首位を獲得。この曲はMTVの強力なサポートを受け、第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの始まりを告げました。その後、MTVがニューヨークとロサンゼルスでも視聴可能になると、ビデオがヒットを左右する大きな要素となりました。フロック・オブ・シーガルズの「アイ・ラン」、デュラン・デュランの華麗なミュージックビデオなどが、次々とヒットを飛ばしました。

1983年には、ビリー・アイドル、ボニー・タイラー、ジョン・ウェイト、ロバート・パーマーといったアーティストがチャートを席巻。カルチャー・クラブやユーリズミックスといった、テクノロジー志向で、視覚的なインパクトも強いニューポップ、ニューミュージック系のアーティストたちが人気を博しました。これらのアーティストたちは、パンク時代からキャリアをスタートさせ、より広い層への訴求を模索していた点が共通していました。

デフ・レパードやシンプル・マインズなど、ビデオを効果的に活用したロック系のアーティストも、このインヴェイジョンの重要な部分を担いました。1983年には、アメリカにおけるレコード売上の30%をイギリス人アーティストが占めるという、驚異的な数字を記録。トップ40のうち20曲をイギリス勢が占めた日もありました。『ニューズウィーク』誌や『ローリング・ストーン』誌が、この現象を大きく取り上げました。カルチャー・クラブやデュラン・デュランは、ビートルズ以来のティーンエイジャーたちの熱狂的な支持を集めました。

このインヴェイジョンは黒人リスナー向けのラジオ局にも波及し、「逆クロスオーバー」現象と呼ばれました。これは、アメリカ黒人音楽の影響を受けたイギリス人アーティストたちが成功したことを示しており、最初のブリティッシュ・インヴェイジョンと共通点を示しています。また、既に成功を収めていたクイーン、デヴィッド・ボウイといった大物アーティストたちも人気を不動のものとしました。

反応：賛否両論と新たなオルタナティブ

第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンは、アメリカ音楽シーンに大きな衝撃を与えました。主流メディアは、イギリスアーティストとMTVが音楽シーンに新たな活気をもたらしたと評価しましたが、ロックジャーナリストの一部からは、中身のない音楽、責任感のない「イングランドの散髪バンド」といった批判的な意見も上がりました。イギリス国内でも、この「ニューポップ」への反発として、パンクへのノスタルジアや、批判的な音楽活動が見られました。

サイモン・レイノルズは、1984年に独立系のレーベルと契約したアーティストたちが、第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンに代わるオルタナティブなロックシーンを形成していったと指摘。ザ・スミスやR.E.M.などを、オルタナティブ・ロックの重要な存在として挙げています。

終焉：アメリカ勢の台頭と新たな時代

1980年代後半になると、アメリカのロックやヘヴィメタル、ポップアーティストたちもビデオを駆使し、キャッチーな曲を制作するようになってきました。特に、マドンナ、プリンス、マイケル・ジャクソンなどが、イギリス勢を凌駕する存在となりました。グラムメタルの隆盛や、ボン・ジョヴィの成功などが、その象徴でした。

1986年秋、ボン・ジョヴィのアルバム『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』が全米アルバムチャートで首位を獲得し、ニューミュージックは徐々に勢いを失っていきました。1990年代半ばには、スパイス・ガールズが第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの延長線上に位置づけられることもありましたが、ブリットポップの成功は限定的なものにとどまりました。2002年には、Billboard Hot 100からイギリス勢が完全に姿を消すという事態も起きました。

第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンは、MTVという新たなメディアの力、イギリス音楽シーンの創造性、そしてアメリカ音楽シーンへの影響という、複雑な要素が絡み合った現象でした。この現象は、音楽史において重要な転換期の一つとして記憶されています。

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