笹下

横浜市港南区 笹下

横浜市港南区の東部に位置する笹下は、一丁目から七丁目までで構成される住居表示実施済みの地域です。上大岡の南に広がり、東側と南側は磯子区に接しています。笹下川と笹下釜利谷道路（旧金沢道）沿いに古くから集落が形成され、特に明治時代には久良岐郡の中心として発展した歴史を持つ土地です。地域ではオリジナルの「笹下よいとこ」という歌が盆踊りなどで親しまれています。

地名の由来と歴史的背景

笹下という地名は、『武州久良岐郡地名考』や『日本城郭大系』によると、この地を治めた間宮氏の出身地とされる近江国篠箇郷（ささがごう）に由来すると伝えられています。地域内を流れる笹下川の名称も、同様に笹下城に由来すると考えられています。

縄文時代にまで遡る雑色杉本遺跡の発掘調査結果は、この地に古代から人々の営みがあったことを示しています。元来、現在の磯子区南部から港南区の一部を含む広範囲は「杉田郷」と呼ばれていましたが、間宮氏が入部して以降に笹下郷が分かれ、天文年間（1532年-1555年）には笹下村、関村、雑色村、松本村に分村されました。これらの村の範囲は現在の笹下一〜七丁目にほぼ対応しますが、当時は飛地や入会地が多く、明確な境界はありませんでした。

天文年間には、領主であった間宮豊前守信元によって現在の笹下四丁目の辺りに笹下城が築かれました。江戸時代中期には村々の世帯数が『新編武蔵風土記稿』に記録されており、関村34戸、雑色村42戸、松本村64戸が確認できます。

近世においては、東京・横浜と三浦半島を結ぶ街道沿いにあることから、明治時代には久良岐郡の行政や商業の中心地として栄えました。郡役所、警察署、登記所、料亭などが置かれましたが、横浜市への編入による郡役所の閉庁や警察署の再編、さらには根岸湾沿いの国道整備による交通の変化に伴い、かつての中心としての機能は失われ、農村としての性格に戻っていきました。明治中期には花卉栽培が盛んになり、江戸時代から明治にかけては、間宮家が植林した杉田梅林が観梅の名所として知られました。

笹下の地理と各地域の特色

笹下一・二・三丁目

笹下川の東側に広がる細長い地域で、東は磯子区に接しています。一丁目には、1969年に完成した総戸数430戸の笹下台団地があります。二丁目の関宮山東樹院付近は、江戸時代に高札場が置かれ、明治期には郡役所など久良岐郡の中心施設が集中していました。現在、郡役所跡は住宅地となっています。この地には、北条実時の病を治したという言い伝えが残る「鰻の井戸」が保存されています。明治時代には料亭「石川楼」が存在し、皇族が杉田梅林へ向かう際の休憩所としても利用されたと伝えられます。環状2号線の南側に位置する三丁目には日下小学校があり、道路沿いにはファミリーレストランなどのロードサイド店舗も見られます。

笹下四丁目

この地域は、磯子区洋光台一丁目にかけて、間宮氏の居城であった笹下城の主要部分があったとされています。梅花山成就院の裏手にある丘の頂上部一帯が本丸であったと伝わります。江戸時代初期には、間宮直元によって現在の洋光台一丁目の元笹下橋付近に笹下間宮家の陣屋が設けられました。この陣屋の門は成就院に移築され、現在もその姿をとどめています。また、幕末の鎌倉事件で実行犯として後に自首した間宮一の墓も同寺に残されています。

笹下五丁目

五丁目を東西に環状2号線が貫いています。通りの南側の丘の上には笹下中央公園があり、地域住民の憩いの場となっています。この公園の地下からは、縄文時代から古墳時代にかけての複合遺跡である雑色杉本遺跡が発見されています。環状2号線の建設に伴う発掘調査では、竪穴建物跡や土坑などが検出されました。公園内には、教育委員会によって発掘調査の概要と、地下に遺跡が保存されていることを示す説明看板が設置されています。また、この公園の場所は、笹下城の出丸の一つであった北見掃部屋敷跡であり、切岸や犬走りが存在したという説もありますが、発掘調査の結果、城跡や中世に属する遺構は発見されず、地形は自然のものであると結論付けられています。この地域はかつての雑色村であり、現在も雑色町内会にその名残をとどめています。

笹下六・七丁目

笹下川の西側に広がる主に住宅地です。北は港南区港南、南は磯子区洋光台、西は港南区日野中央の日野公園墓地に接しています。笹下七丁目から天照大神宮、そして横浜市立笹下中学校（現在の町域外、港南五丁目に所在）にかけての丘陵には、笹下城の出城の一つとされる松本城があったとされています。この丘陵では、天照大神宮付近に「中の丸」という地名が残り、丘の頂上近く、桜道が交差する辺りは「陣が台」と呼ばれています。『日本城郭大系』や『久良岐郡地名考』などでは、ここが練兵場や有事の際の指揮所として機能していた可能性が考察されています。六・七丁目の新興住宅地は、鉄道駅から距離があり、長らく交通の便が課題でしたが、2001年に江ノ電バスによる路線バスが開通し、利便性が向上しました。なお、横浜市立笹下中学校や、鎌倉街道沿いの笹下港南中央通バス停（港南中央通に所在）など、笹下の名を冠しながらも現在の笹下の町域から外れる施設も存在します。また、磯子区の田中、栗木、峯、矢部野（現在の洋光台の一部）はかつて上笹下地区と呼ばれ、現在も一部の町内会名などにその名が残っています。

交通

町内には鉄道駅がありません。主な交通手段はバスとなり、江ノ電バスが上大岡駅や洋光台駅、横浜駅などを結んでいます。町の中央部、打越交差点では、南北に走る笹下釜利谷道路と東西に走る環状2号線が交差しており、主要な交通結節点となっています。特に西部の六・七丁目は、2001年に開通した「こまわりくん」と呼ばれる江ノ電バス路線によって、上大岡駅や洋光台駅へのアクセスが改善されました。

その他の情報

笹下の郵便番号は234-0052で、集配は港南台郵便局が行っています。地域の警察管轄は、大岡警察署の管轄区域に含まれます。

面積と地価

笹下の総面積は、情報提供されていますが具体的な数値は示されていません。住宅地の地価としては、2024年（令和6年）1月1日時点の公示地価で、笹下6-25-7の地点が17万円/m²となっています。

人口や世帯数、事業所数、従業員数に関する統計データも国勢調査や経済センサスに基づき存在しますが、変動があるためここでは詳細な数値の記載は省略します。就学については、指定された市立小・中学校の学区が定められています。

笹下は、縄文のいにしえから現代に至るまで、街道沿いの交通の要衝として、あるいは武士の拠点として、そして近代の郡の中心として、多様な歴史を刻んできた地域です。現在は主に閑静な住宅地として、その歴史的な面影と現代の暮らしが共存しています。

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