箱崎ふ頭貨物船火災沈没事故

箱崎ふ頭貨物船火災沈没事故

2017年4月24日、福岡市博多港の箱崎ふ頭で、貨物船「TAI YUAN」から火災が発生し、翌25日に沈没するという重大な事故が発生しました。この事故では、幸いにも死傷者は出ませんでしたが、船舶の沈没による油の大量流出が、環境に深刻な影響を与えました。

事故の概要

事故が発生したのは、福岡市東区箱崎ふ頭4丁目の16号岸壁です。この場所で貨物船「TAI YUAN」が、積荷の金属スクラップから出火し、消火活動の遅れと不適切な対応が重なり、最終的に沈没に至りました。

船舶の情報

船主: TAI YUAN INTERNATIONAL SHIPPING CO.,LTD (香港)
船名: TAI YUAN (タイ・ユエン)
船籍: ベリーズ
全長: 81メートル
総トン数: 1,972トン
種類: 貨物船（積載貨物は金属くず等の再利用資材）
乗組員: 11名（全員中国人）

事故の原因

事故の直接的な原因は、船尾側の貨物倉に積載されていたスクラップ内部からの出火です。出火原因は特定されていませんが、金属同士の摩擦による火花や、スクラップに混入していた電池類などが考えられます。しかし、初期消火活動における放水が効果的でなかったこと、そして、炭酸ガス消火設備の適切な使用がされなかったことが、火災の拡大と沈没を招いた主な要因です。

船長が炭酸ガス消火設備の使用を思いつかなかったのは、過去に貨物倉での火災を想定した消火訓練の経験がなかったためでした。また、船主と荷役業者間で、火災発生時の効果的な消火方法に関する情報共有がなされていなかったことも、対応の遅れを招いた要因の一つです。放水による消火が効果的でなかったのは、水がスクラップの表面を覆うだけで内部の火元まで届かなかった可能性が高いとされています。

油の流出と回収

貨物船の沈没後、大量の重油が流出しました。福岡市は、当初、油の流出の可能性と燃料油の引火の危険性を考慮し、オイルフェンスの設置を遅らせました。しかし、沈没後に油の流出が確認されたため、船舶所有者に対応を指示するも、即時対応は困難との回答を受けました。そのため、福岡市が主体となりオイルフェンスを設置しました。

流出した油は、沈没から約5時間の間に広範囲に拡散し、潮の満ち引きによってオイルフェンスの隙間からも流出が続いたと考えられています。流出油の総量は、約63キロリットルと推計されています。回収作業は、吸着マットやオイルフェンスによって行われましたが、一部の油は回収しきれず、博多湾内や河川にも広がりました。

事故後の経緯

4月21日: 貨物船が博多港に到着し、スクラップの積み込みを開始
4月23日: 荷役業者の休業日、作業中断
4月24日: 午後、貨物倉から出火。消防による消火活動開始。タンパク泡放射による消火活動も行われたが、鎮火に至らず。
4月25日: 未明、船が沈没。大量の油が流出。福岡市がオイルフェンスの設置を開始。その後、船舶所有者もオイルフェンスを設置。
4月26日: 福岡市漁業協同組合が油回収作業を開始。オイルフェンスの多重化が進む。
4月27日: 関係機関による油回収作業が本格化。海浜公園の利用規制。
4月28日: 福岡市が海浜公園での油除去作業開始。国土交通省の清掃兼油回収船「がんりゅう」が油回収作業に参加。
5月1日: 海上での油回収がほぼ完了。
5月7日: 船体からの油抜き取り作業完了。
5月12日: 海浜公園の水質検査の結果、問題なしと判明。潮干狩り等の自粛を終了。
6月7日～11日: 積荷の引き揚げ作業
7月7日: 船体の引き揚げ、解体処理

油流出の影響

油の流出は、広範囲にわたり深刻な影響を及ぼしました。

海域: 博多湾の広範囲で油の浮遊が確認され、西は長垂海浜公園沖、北は西戸崎沖まで広がりました。
陸域: シーサイドももち海浜公園から生の松原、西戸崎付近に油が漂着しました。
河川: 室見川など博多湾に流れ込む複数の河川に油が流入しました。
漁業被害: 出漁不能、漁獲物の販売不能、有料潮干狩りの中止など、深刻な被害が生じました。
市民生活: 海浜公園での遊泳や潮干狩りが禁止されるなど、市民生活にも影響が出ました。

浮流油除去作業

油の除去作業は、多数の機関が協力して行われました。

福岡海上保安部：油回収作業を指揮
福岡市漁業協同組合：油吸着マット等による油回収
福岡市港湾建設協会: 油回収作業を支援
福岡市土木建設協力会: 油回収作業を支援
福岡市舗装協会: 油回収作業を支援
国土交通省九州地方整備局：清掃兼油回収船「がんりゅう」による油回収
福岡県：河川での油回収
福岡県警察: 油回収作業を支援
福岡市：オイルフェンスの展張、油回収など

再発防止策

この事故を教訓に、再発防止策が講じられました。

福岡市：「港湾施設における防火対策等に関する指導要領」を改正し、火源となり得る貨物と可燃性物質の分別を義務化
福岡市消防局：金属スクラップ積載船舶火災に特化した「消防活動計画」を策定
福岡市港湾空港局：「流出油防除マニュアル」を改正し、油の流出のおそれがある時点での対策を可能に。また、油防除資機材の増設、訓練の実施、関係機関との協力体制を強化。

損害賠償金

福岡市は、油の流出による損害賠償として、船舶所有者から1億1280万円の支払いを受けました。

まとめ

箱崎ふ頭貨物船火災沈没事故は、初期対応の遅れや消火方法の不備、関係機関との情報共有不足など、多くの課題を浮き彫りにしました。この事故を教訓に、再発防止策を講じ、関係機関との連携を強化することで、より安全な港湾運営を目指すことが重要です。

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