築地六番神学校

築地六番神学校（つきじろくばんしんがっこう）

築地六番神学校は、明治時代初期、1875年に東京の築地外国人居留地に設立された、日本のプロテスタント教会史における重要な神学校の一つです。この学校は、アメリカ合衆国長老教会から派遣された宣教師であるクリストファー・カロザースによって創設されました。その設立目的は明確で、近代化が進む日本社会において、福音を伝え、教会を形成していくための有能な日本人牧師や伝道者を育成することにありました。

設立の背景と経緯

学校の設立には、当時すでに横浜において活動していた他のミッションによる神学教育の取り組みが影響を与えています。特に、アメリカ・オランダ改革派教会がブラウン塾（S.R.ブラウン塾）で開催していた神学研究会は、日本の初期プロテスタント教会における指導者育成の先駆けとなっていました。このような動きに触発され、アメリカ合衆国長老教会も独自の神学教育機関を設立する必要性を認識しました。その結果、築地居留地内に神学校を開設する計画が進められます。

そして、1875年1月5日、築地居留地の6番地にあった教会会堂を校舎として、築地六番神学校は正式に開校しました。開校にあたっては、入学を希望する日本人志願者に対する選抜試験が行われました。当時、ヘンリー・ルーミスが牧会していた横浜第一長老教会からは、石原保太郎、原猪作、篠原誾蔵、角谷省吾、南小柿洲吾の5名が受験し、全員が合格して入学を許可されました。一方、カロザース自身が牧会していた東京第一長老教会からは、戸田欽堂、田村直臣、佐野徳太郎の3名が受験しましたが、戸田欽堂を除く田村直臣と佐野徳太郎の2名が合格しました。これらの初期の学生たちは、後に日本のプロテスタント教会において指導的な役割を担っていくことになります。

学校の初期の教師陣は、設立者であるクリストファー・カロザースと、同じくアメリカ合衆国長老教会から派遣されていたO・M・グリーン宣教師が務め、学生たちに聖書や神学、教会史などの教育を行いました。

運営の変遷と発展的解消

しかし、設立からわずか1年後の1876年4月、設立者であるカロザースが宣教師としての職を辞任するという出来事が発生します。これは、聖書を日本語に翻訳する際に「Jesus」を意味する言葉として「耶蘇」という訳語を用いることについて、他の宣教師、特にウィリアム・インブリーとの間で意見の対立が生じたことが原因でした。設立者の離任という困難に直面しますが、日本人教職者の育成という神学校の使命は、ミッションにとって極めて重要であると考えられたため、神学校は存続することになりました。カロザースの辞任後、神学校の運営と教育はO・M・グリーン宣教師と、カロザースとの訳語問題で対立したウィリアム・インブリー宣教師によって引き継がれました。

築地六番神学校の歴史は決して長いものではありませんでしたが、日本のキリスト教界における教育機関の合同という、より大きな流れの中でその役割を終えることになります。開校から2年後の1877年、築地六番神学校は、横浜にあったブラウン塾、そして同じく築地に設立されていたタムソン塾（ヘンリー・タムソン宣教師により設立）と合併することになりました。この三つの神学教育機関の合同により、東京一致神学校が設立されます。合併後の東京一致神学校は、築地六番神学校が当初使用していた築地居留地6番の小会堂を主な学び舎として、さらに規模を拡大し、より充実した形で日本人牧師の養成を継続しました。このように、築地六番神学校は独立した機関としての歴史を終えましたが、その志と機能は東京一致神学校へと引き継がれ、日本のプロテスタント教会形成の歴史において、発展的にその役割を継承していくことになったのです。

この神学校の歴史は、明治初期における宣教師たちの熱心な伝道活動と、それに応じた日本人協力者たちの献身、そして黎明期のキリスト教界における教育機関設立への情熱を物語っています。詳細については、『長老・改革教会来日宣教師事典』（教文館、2003年）などに記述が見られます。

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