義空

義空（ぎくう）

義空（ぎくう、生没年不詳）は、平安時代前期に唐から日本へ渡来した禅僧です。彼の足跡は、当時の日中仏教交流の一側面を映し出しています。

来日の経緯

義空は中国・杭州塩官県にあった海昌院の斉安国師に師事していました。承和年間、皇太后橘嘉智子が恵萼（えがく）を使者として唐に派遣し、唐の禅僧を招聘しようとしました。恵萼は五台山を訪れた後、斉安を招聘しようとしましたが、斉安は義空を推挙しました。恵萼は承和9年（842年）にいったん帰国しますが、この時、義空は同行しませんでした。

その後、恵萼は再度唐を訪れ、義空を説得します。承和14年（847年）、恵萼の帰国に同道する形で、義空はついに日本へと渡りました。恵萼が日本に戻る頃、中国の江南地域では会昌の廃仏の影響が及んでおり、それが義空の来日を後押ししたとも考えられています。

日本での活動と帰国

来日した義空は、まず東寺西院に住みましたが、その後、橘嘉智子が創建した檀林寺に移り、その開基となりました。多くの人々が仏道を彼に問い質しましたが、当時の日本では禅宗が十分に理解されず、普及には至りませんでした。また、当時の日本仏教界における戒律の乱れは、義空を失望させました。

さらに、会昌の廃仏が終息し、唐の仏教界が再興に向かい始めたこともあり、義空は斉衡年間（854年 - 857年）に、わずか数年の滞在で唐へと帰国しました。帰国後、恵萼が再び唐に渡った際、義空はその事績を「日本国首伝禅宗記」として碑に刻み、日本に送ったとされています。その碑は、京の羅城門脇に建てられました。

義空の足跡は、当時の日本における禅宗受容の難しさや、仏教界の状況、そして日中間の文化交流の複雑さを物語っています。

参考文献

田中史生『国際交易と古代日本』（吉川弘文館、2012年） ISBN 978-4-642-02495-2
第二部第二章「江南の新羅系交易者と日本」（原論文:2007年）
* 第二部第三章「唐人の対日交易」（原論文:2006年）

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