会昌の廃仏

会昌の廃仏

会昌の廃仏（かいしょうのはいぶつ/えしょうのはいぶつ）は、中国の唐代、武宗の治世下で起こった仏教弾圧事件です。この事件は、仏教だけでなく、当時長安を中心に栄えていたマニ教、ゾロアスター教、ネストリウス派キリスト教といった外来の宗教も同時に排斥したという点で特筆されます。会昌とは、この弾圧が行われた時代の年号を指します。中国史における仏教弾圧事件である三武一宗の廃仏の一つであり、3回目の弾圧に当たります。

概要

開成5年（840年）に即位した武宗は、道教に深く傾倒し、宮中に道士を招き入れる一方で、教団が肥大化していた仏教や、景教などの外来宗教に対して厳しい弾圧を行いました。

『旧唐書』や『資治通鑑』などの史書によると、弾圧は会昌5年（845年）の4月から8月にかけて行われ、7月には武宗が詔を発布し、寺院4,600ヶ所以上、招提や蘭若といった小規模な寺院が40,000ヶ所以上廃止されました。さらに、26万500人もの僧侶や尼僧が還俗を強制され、没収された寺の土地は数千万頃に及び、寺の奴婢15万人が一般の民に編入されました。

日本の留学僧であった円仁（794年-864年）の旅行記『入唐求法巡礼行記』によると、弾圧は会昌5年以前から始まっていました。会昌2年（842年）には、宰相の李徳裕が僧院の管理を強化するよう提言し、私度僧や年少僧を追放する命令が出されました。会昌3年（843年）に仏教擁護者であった宦官の仇士良が亡くなると、長安では寺院からの僧侶や尼僧の外出が禁止され、城内での還俗が強制されました。円仁を含む外国の僧侶たちも外出制限を受けることになりました。

また、モンゴル高原のウイグルやチベットの吐蕃などの分裂も起こっており、対外勢力の動揺も弾圧を後押ししたと考えられています。

会昌6年（846年）に武宗は丹薬の過剰摂取により体調を崩し、33歳で崩御。これにより弾圧は終息しました。

この三武一宗の法難の中で最大規模であり、最も徹底的な廃仏運動であったにも関わらず、長安と洛陽の二京にはそれぞれ4ヶ寺、各州の州都にも1寺が残されました。州の規模に応じて、大都市には20人、中都市には10人、小都市には5人の僧侶が残されました。また、武宗の権力が及ばない河朔三鎮の節度使の支配地域では、節度使たちが熱心な仏教信者であったため、廃仏は行われませんでした。

近年では、この廃仏運動の背景として、荘園の没収や仏像、仏具を溶かして貨幣を発行するなど、当時の経済・財政状況との関連性も研究されています。

参考文献

春日礼智「会昌法難の意義」（『東方宗教』29、1967年）
加藤正人「唐代の「会昌廃仏運動」に関する一試論」（『比較文化研究』35、1997年）
高橋佳典「聖節に見る武宗の宗教政策：會昌の廢佛と聖節の變容」（『中国古典研究』44、1999年）
高橋佳典「會昌廢佛における宰相李徳裕の意圖と役割」（『中国古典研究』48、2003年）

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