羽衣文具

羽衣文具株式会社

羽衣文具株式会社（はごろもぶんぐ）は、かつて愛知県春日井市に本社を構えていた日本の文房具メーカーです。特にその高品質な「羽衣チョーク」は国内外で広く知られ、多くの教育関係者や専門家から絶大な信頼を得ていました。中でも、炭酸カルシウムを主原料としたフルタッチチョークは、優れた書き心地と品質から最高級品として高く評価されていましたが、会社の事業は残念ながら2015年に幕を閉じました。

会社の歴史と発展

会社の起源は1932年（昭和7年）に遡ります。歯科医であった渡部四郎氏が「日本チョーク製造所」として愛知県名古屋市で創業しました。しかし、第二次世界大戦の戦火によって工場を失い一時休業を余儀なくされます。戦後、1947年（昭和22年）に「羽衣文具株式会社」として再出発を果たしました。当初はチョークのほか、石膏や石筆、各種ボード類なども製造していましたが、主力商品は学校向けのチョークとなり、最盛期には国内チョーク市場の約30％を占め、年間およそ4500万本を生産していました。

経営状況の変化と廃業

しかし、2010年代に入ると状況は変化します。少子化の進行に加え、学校現場でのホワイトボードや電子黒板の普及が進んだことで、チョークの需要は次第に減少しました。加えて他社との競争も激化し、2011年から2014年にかけては売上高と収益が低迷します。業績の改善が見込めない厳しい状況に加え、経営者の高齢化による後継者不在、さらには代表の体調不良といった要因が重なり、会社は事業継続が困難と判断。2015年（平成27年）3月に廃業を発表しました。生産は同年3月20日に終了し、販売も3月31日をもって完全に停止されました。

廃業がもたらした反響

羽衣文具の廃業は、その製品が長年多くの人々に愛用されていただけに、国内外の教育関係者や専門家の間で大きな注目を集めました。特にフルタッチチョークの廃止を惜しむ声は多く、突然の発表を受けて日本国内の教育機関や教員による駆け込み需要が殺到しました。国外でもその動きは広がり、アメリカのスタンフォード大学のブライアン・コンラッド教授ら約200名の数学者が、将来の使用を見越して1トンものチョークを共同購入したというエピソードはよく知られています。数学分野の最高峰とされるフィールズ賞の受賞者にも愛用者が多かったとされています。また、廃業を惜しむ気持ちは短歌にも詠まれ、2015年11月8日の朝日新聞に掲載されるなど、社会的な反響の大きさを物語っています。

技術の継承

廃業後、羽衣文具の築き上げてきた技術とブランドは引き継がれることになりました。2015年6月には、「HAGOROMO」ブランドをはじめとする商標権、大半の製造設備、そして長年培われた材料調合や製造技術に関するノウハウ全てが、韓国のセジョンモール社に譲渡されました。セジョンモール社は、羽衣チョークの愛用者であった辛亨錫（シン・ヒョンソク）氏が設立した会社であり、現在は同社が日本の羽衣文具の技術を基にした「羽衣チョーク」等の生産・販売を継続しています。かつて技術を引き継いだ日本の株式会社馬印も一時関連製品を販売していましたが、後に終了しており、現在ではセジョンモール社が事実上唯一の技術継承先となっています。

主な製品

羽衣文具は多様な製品を製造していましたが、やはりチョークが中心でした。

チョーク
フルタッチ: 炭酸カルシウムを原料とし、表面は樹脂でコーティングされた主力製品。牡蠣殻粉末も配合されており、グリーン購入法にも適合していました。優れた書き味から「チョーク界のロールスロイス」とも称され、特に予備校講師や数学者からの支持が厚い製品でした。技術はセジョンモール社と一時馬印に引き継がれましたが、現在馬印での販売は終了しています。色覚障害者対応色も用意されていました。
ニューポリチョーク: 焼石膏（硫酸カルシウム）を原料とした、フルタッチよりも軟らかめのチョークです。再生材料を使用し、環境にも配慮されていました。旧製品としてポリチョークがありました。こちらも色覚障害者対応色がありました。
レインチョーク: 硫酸カルシウムを原料とし、雨に濡れても消えにくい特性を持つ屋外作業向けのチョークです。
蛍光チョーク: 1990年に業界で初めて発売された製品で、色覚障害者への配慮から開発されました。
石筆
石膏
各種ボード類：黒板、ホワイトボード、サインボードなど。

羽衣文具の廃業は多くの人々に惜しまれましたが、その高い技術と品質へのこだわりは、セジョンモール社によって現在も世界へと受け継がれています。

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