羽馬家住宅 (南砺市田向)

羽馬家住宅（はばけじゅうたく）

富山県南砺市にある羽馬家住宅は、庄川の右岸に位置する田向集落に建てられた合掌造りの家屋であり、国の重要文化財に指定されています。田向集落は、かつて庄川を渡る手段が籠渡しに限られていたことから交通が不便な土地であり、加賀藩の流刑地としても知られていました。

羽馬家住宅は、現在まで残る合掌造り建築の中でも特に古く、その建造された具体的な年代や当初の所有者については、残念ながら明らかになっていません。しかし、田向集落は1769年（明和6年）の大火で多くの建物が焼失しており、羽馬家住宅もこの大火の後に、現在の南砺市大島にあたる嶋村から移築されたものとの伝承があります。1963年（昭和38年）に行われた解体修理の際に、内側の板や壁の貫材に新しく付けられた番付（解体・再築時の記号）の跡が見つかり、この移築説を裏付ける証拠とされました。

合掌造りの民家が、現在の一般的な形式である礎石の上に柱を立てる方式として成立したのは17世紀中頃と考えられています。羽馬家住宅は、これに続く17世紀後半頃に建てられたと推定されており、18世紀以降に建てられた合掌造りの建物に比べ、規模が比較的小さく、平面構成や構造、工法に古い時代の特徴がよく残されていると評価されています。

羽馬家住宅の基本的な間取りは、間口が四間半、奥行が六間の主屋内部を左右に二分し、それぞれを三つの区画に分けることで合計六つの部屋で構成されています。これらはこの地域特有の呼び方であるオエ（居間）、デー（客間）、ネマ（寝間）、ブッマ（仏間）の四室と、土間空間であるニワ、馬屋を兼ねたマヤに分けられ、初期の合掌造り民家に見られる「田の字型」に近い極めて基本的な平面構成を示しています。また、仏壇が設けられた区画は後から増築されたものと見られ、初期の構造と増築部分が見分けられます。これらの特徴や、ヤリカンナによる仕上げ工法は、合掌造り民家の発展段階を示す最も古い形式の一つとして、文化財としての価値を高めています。

他にも、柱と柱の間の寸法が狭いこと、部屋の仕切りに板戸が用いられていること、帳台構えと呼ばれる一段高くなった敷居を持ち、幅三尺の戸棚上部が袋棚になっていることなど、他の合掌造りには見られない古式ゆかしい形式が残されています。これは、羽馬家住宅が大幅な改築や補修が比較的少なかったためと考えられています。

1963年（昭和38年）4月から12月にかけて大規模な解体修理工事が行われ、その際の詳細な調査記録と修理の報告書が作成・発行されています。

特徴的な構造・工法

現存最古級とされる羽馬家住宅の主な建築的な特徴としては、以下の点が挙げられます。

全ての柱が礎石の上に据えられています。
建物の側面の柱と中心列の柱が、いずれも一間（約1.8メートル）の間隔で等しく配置されています。
使用されている柱材は栗材が主体です。
他の地域で見られるような、特に太い大黒柱を用いることはありません。
表面仕上げは、ちょうなや槍鉋によるもので、まだ台鉋は使用されていません。
敷鴨居の内法寸法が、一般的な五尺八寸（約176センチメートル）よりも低い五尺六寸五分（約171センチメートル）となっています。
指鴨居には付樋端（つけひばた）と呼ばれる部材が取り付けられています。
ネマ（チョンダ）やオマエ（オエの一部）の奥行きが一間（約2.27メートル）と狭くなっています。
* ネマ（チョンダ）への入口は帳台構えとなっています。

現地情報

羽馬家住宅は、富山県南砺市田向254番地に位置しており、東海北陸自動車道の五箇山インターチェンジや富山空港、JR新高岡駅・城端駅などが最寄りの交通拠点となります。公共交通機関を利用する場合は、世界遺産バスの上梨バス停からアクセス可能です。

建物は不定休で開館しており、入場料は無料です。近隣には、五箇山温泉五箇山荘や県指定有形民俗文化財の流刑小屋、田向光明寺、田向住吉社などがあり、いずれも田向集落内に徒歩数分圏内で点在しています。また、庄川を挟んで対岸にある上梨集落には、上梨白山宮や円浄寺、村上家住宅などの見どころがあり、こちらも徒歩で移動できる距離にあります。

関連項目

羽馬家住宅は、同じく合掌造りの重要文化財である岩瀬家住宅（西赤尾）、村上家住宅（上梨）、羽馬家住宅（小瀬）と並び称され、これらをまとめて現存する「四大合掌住宅」と呼ぶことがあります。

もう一度検索