翠玉白菜

翠玉白菜：翡翠が織りなす自然の美

翠玉白菜（すいぎょくはくさい）は、翡翠（ひすい）を素材に、白菜の姿を模して彫刻された、高さ約19センチメートルの美術工芸品です。中華民国台北市にある国立故宮博物院に所蔵されており、同館を代表する名品として、世界中の人々を魅了しています。

作品の概要

翠玉白菜は、高さ18.7センチメートル、幅9.1センチメートル、厚さ5.07センチメートルと、手のひらよりもやや大きい程度の大きさです。この作品の最大の特徴は、その素材である翡翠の原石が持つ色彩を最大限に活かしている点です。原石は、半分が白色、もう半分が緑色のヒスイ輝石で、その原産地は雲南省からミャンマーにかけての地域と推測されています。原石には空洞などの欠陥も見られましたが、彫刻家はそれらを巧みに利用し、白菜の茎や葉の形へと昇華させました。特に、白菜の葉を表現する緑色は、原石本来の色であり、人工的に着色されたものではありません。このような、素材の色や形を最大限に活かす技法は「俏色（しょうしょく）」と呼ばれ、硬玉が中国で普及した清朝中期以降に流行しました。翠玉白菜は、その俏色の技法が最も完成された作品の一つとして高く評価されています。

造形美と象徴性

翠玉白菜の魅力は、その瑞々しい造形美にもあります。葉の重なりや質感、白と緑のコントラストなど、細部にまでこだわりが感じられます。また、葉の上にはバッタとキリギリスが彫刻されており、これらの昆虫は多産の象徴とされています。ただし、キリギリスは学術的に「Gampsocleis gratiosa」という種であり、詩経にある「螽斯」とは意味が異なります。この昆虫は、鳴くことが得意なことで知られ、清の康熙帝の時代から宮廷で宴会の雰囲気を盛り上げるために用いられていました。そのため、子孫繁栄というよりは、宴を彩る装飾としての意味合いが強いと考えられています。一方で、白い白菜部分は純潔の象徴と解釈されており、この解釈は、後述する瑾妃の寝宮から発見されたという史実と整合性が高いとされています。

展示方法の変化

現在、翠玉白菜は木製の台に斜めに立てかけられた状態で展示されていますが、本来は盆景の一部として、琺瑯製の小さな植木鉢に立てられていました。しかし、1925年に故宮博物院が開館する際、当時の担当者は、現在の展示方法が白菜の魅力をより引き出すと判断し、現在の形に変更されました。長らく行方不明となっていた琺瑯鉢と支持具は、21世紀になって再発見され、現在は翠玉白菜の隣に展示されています。しかし、本作品は垂直に立てて正面から見たときに最も魅力が引き出されるように作られており、外側の葉は、手前の葉が低く、奥の葉が高くなるように計算され、立てた時に最も多くの葉が連続して見える構造となっています。

歴史的背景

翠玉白菜の作者は不明ですが、清朝の光緒帝の妃である瑾妃の住居、永和宮（紫禁城内）にあったことから、瑾妃が嫁いだ1889年に持参した品であると考えられています。1911年の辛亥革命で清朝が倒れた後、清室の美術品は民国政府に接収され、故宮博物院の所蔵品となりました。その後、第二次世界大戦の混乱を避けるため、上海市に移送され、さらに国共内戦の影響で台湾の国立故宮博物院へと移されました。2014年には、東京国立博物館で開催された特別展で初めて海外出品されました。

文化的意義

翠玉白菜は、国立故宮博物院の「最も有名な彫刻」として知られ、清明上河図、肉形石と並んで同館の三大至宝とされています。この作品は、その美術的価値だけでなく、歴史的背景や文化的意義においても重要な存在です。また、国立故宮博物院のミュージアムショップでは、翠玉白菜の関連グッズが人気を集めており、その中には中国製のおもちゃが含まれていることが、過去に話題になったこともあります。


翠玉白菜は、その繊細な彫刻技術と素材の美しさを通して、自然の造形美と人間の創造力の融合を体現しています。国立故宮博物院を訪れる際には、ぜひその目で確かめてみてください。

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