老方駅

秋田県由利本荘市東由利老方（かつて由利郡下郷村、東由利村、東由利町）にかつて存在した老方駅は、羽後交通横荘線の終着駅でした。この駅は、路線の一部区間廃止に伴い、1953年（昭和28年）8月5日にその歴史に幕を下ろした廃駅です。

歴史的背景

老方駅の開業は、太平洋側と日本海側を結ぶ「陸羽横断鉄道」構想の一環であり、横荘鉄道の社名の由来ともなった「横手本荘連絡」を実現するためのものでした。1930年（昭和5年）10月5日、二井山駅から老方駅までの区間が延伸開業し、一般駅として営業を開始しました。しかし、昭和初期の深刻な世界恐慌と東北地方を襲った冷害が重なり、資金調達が困難に陥ります。これにより、老方駅からその先、由利高原鉄道鳥海山ろく線の前郷駅まで約23kmを結ぶ当初の計画区間は建設されず、未成線に終わりました。結果として、この老方駅開業区間が、横荘鉄道において最後に建設された区間となりました。横手と本荘を結ぶ連絡機能は、この未成区間の代わりにバス路線を開設することで代替されました。

特に、二井山駅から老方駅に至る12.1kmの区間は、奥羽山脈系の分水嶺を越える地形であり、人里離れた山間部を通過するため建設が非常に困難でした。この区間の建設費は140万円に達し、羽後大森駅から二井山駅までの比較的平坦な5.4km区間の建設費が19万円強だったことと比較すると、その難工事ぶりが伺えます。

この二井山・老方間は、冬季には雪害による運休が頻繁に発生する区間でもありました。さらに戦後、燃料費が高騰したことも重なり、早い段階から不採算区間と見なされます。羽後交通（1944年に羽後鉄道、1952年に羽後交通へ改称）は会社経営の立て直しを図るため、1949年（昭和24年）12月22日にこの区間の営業を休止しました。休止時点では、1日2往復の混合列車が運行されるのみでした。この営業休止がそのまま廃止へと繋がり、ついに復活することはありませんでした。

また、二井山・老方間の廃止と同じ日、老方駅と前郷駅を結ぶ未成区間の敷設免許についても、これまで繰り返し行われてきた工事期限延長の手続きが打ち切られ、正式に申請廃止の手続きが取られました。

年表

1930年（昭和5年）10月5日：横荘鉄道二井山駅 - 老方駅間延伸に伴い開業。一般駅として営業を開始。
1944年（昭和19年）6月1日：鉄道会社名が羽後鉄道に改称され、路線名が横荘線となる。
1946年（昭和21年）夏：国鉄からの借入機であるC12形蒸気機関車牽引の試運転列車が、当駅発車後に浮蓋駅を過ぎて過速暴走、八沢木駅手前で停止する事故が発生。
1947年（昭和22年）7月23日：豪雨により路盤や橋脚が損壊し、横荘線全区間が運休。老方駅も営業休止となる。
1948年（昭和23年）11月8日：運休していた舘合駅 - 老方駅間が復旧し、営業を再開。
1949年（昭和24年）12月22日：二井山駅 - 老方駅間が営業休止となり、老方駅も休止駅となる。
1952年（昭和27年）2月15日：鉄道会社名が羽後交通に改称。路線名も羽後交通横荘線となる（駅は休止中）。
1953年（昭和28年）8月5日：二井山駅 - 老方駅間が部分廃止され、老方駅も廃止となる。

駅構造

廃止時点の老方駅は、地上に島式ホーム1面2線を有する構造でした。駅構内にはこれに加え、本線横手方から分岐して北側（駅舎の反対側）に伸びる行き止まりの車庫線が1線、そして本線の終端側から南側に分岐し駅舎西側に至る行き止まりの側線が1線設けられていました。当駅は職員が配置される有人駅でした。駅舎は構内の南側に位置しており、ホームの東側とは構内踏切で連絡していました。

駅周辺

老方駅は、かつて由利郡下郷村の中心部に位置していました。後の合併により東由利村（さらに町制施行して東由利町）が誕生すると、その役場が置かれた場所でもありました。駅の近くには、秋田県道48号横手東由利線が通っていますが、この県道の二井山地区から老方地区にかけての大部分は、かつての横荘線の線路跡がそのまま転用されています（ただし、駅跡周辺は県道とは別のルートを取っています）。その他、主要道路である国道107号（本荘街道）や、老方郵便局、石沢川などが周辺にありました。

駅跡の現況

老方駅の跡地は、時代とともにその姿を変えています。1996年（平成8年）および1999年（平成11年）時点では、駅の跡地に東由利町役場が建てられていました。しかし、その後役場庁舎は移転し、2007年（平成19年）5月には建物が取り壊されて更地となり、「役場跡」を示す石碑が建立されましたが、この時点では駅そのものを示す痕跡はありませんでした。2010年（平成22年）10月には、石碑のそばに老人介護施設が建設されています。

一方、二井山駅跡付近から老方の集落入口にかけての線路跡は、前述の通り秋田県道48号として再利用されています。1996年（平成8年）や1999年（平成11年）当時は、築堤や切通しといった鉄道時代の遺構がほぼ当時の姿を留めていました。2007年（平成19年）5月時点でもその様子は変わらず、道床をそのまま舗装したような独特のカーブを持つ道路となっていました。この県道は2010年（平成22年）時点でも同様の状態です。

ただし、この県道は老方の集落入口付近で線路跡から離れます。1999年（平成11年）時点では、県道と線路跡転用部分の境界点にある橋の隣に、横荘線の橋台が片方だけ残存しているのが確認できました。駅跡周辺は区画整理が進み、線路や駅の痕跡は残っていませんでした。2007年（平成19年）5月時点でも同様でしたが、県道が線路跡から分岐する付近には、未舗装の農道として線路跡の一部が再利用されている箇所がありました。さらに2010年（平成22年）10月には、石沢川の護岸の一部に出っ張りがあり、これが横荘線の橋台を取り込んだものであることが確認されています。かつて賑わった終着駅の面影はほぼ失われましたが、周辺には今もかすかに鉄路の記憶が残されています。

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