聖エリサベトと幼児の洗礼者ヨハネを伴うキリストの降誕

『聖エリサベトと幼児の洗礼者ヨハネを伴うキリストの降誕』は、イタリアのルネサンス期を代表する画家、コレッジョによって1512年頃に制作された油彩画です。この作品は、イエス・キリストの降誕という聖書の重要な場面を主題としていますが、聖エリサベトと幼い洗礼者ヨハネが降誕の場面に立ち会っているという点で、非常に独特な構成を持っています。

作品の構成と特徴

この絵画では、生まれたばかりのイエス・キリストを前に、聖母マリアと聖エリサベトがひざまずいて礼拝しています。聖母マリアは我が子を優しく見守りながら祈りを捧げ、聖エリサベトは幼児キリストに心を奪われるように身を屈めています。幼子キリストは、干し草の上に敷かれた白い布の上で眠り、その頭上からは天からの光が優しく降り注いでいます。聖母の頭上では二人の天使が香炉を振りながら飛翔し、その視線は天からの光を捉えています。

画面右端には、聖母マリアの夫である聖ヨセフが鞍にもたれて眠っています。この描写は、中世からの図像の伝統に従っていますが、鞍を枕にしている点は、彼が夢の中で幼児虐殺の警告を受け、エジプトへの逃避をしなければならないという聖書の物語を暗示しています。聖ヨセフの背後には、古代の神殿の廃墟や馬小屋、そしてロバの姿が描かれています。

降誕の場面は枝で編まれた柵で囲まれ、中央のイオニア式の石柱のそばでは、天使が柵の外にいる羊飼いたちにその光景を示しています。夕暮れの光が画面全体を照らし、色彩を燃え上がらせると同時に、鈍く輝かせています。衣文の線は波立ち、石柱は光によって立体感が増しています。

構図は、画面中央の石柱によって均等に分割されており、それぞれ独立した人物像が丁寧に配置されています。聖母マリアの態度は、聖エリサベトや聖ヨセフのそれと対比されており、人物のサイズはやや小さく、コレッジョの初期作品に見られる細密画的な傾向が見られます。

作品の象徴性と神学的な意味合い

この作品は、神学や象徴性において「非常に計算された」作品とされています。画面の中央に配置された幼児キリストは、神の計画の中心にいることを象徴しています。イオニア式の石柱は、空間を自然と建築に分割し、キリストの誕生が歴史を分ける出来事であることを示唆しています。また、聖書の物語には登場しない聖エリサベトと聖ヨハネを描くことで、旧約聖書の時代から新しいキリスト教の時代への結びつきを表現しています。

コレッジョの画風と影響

この作品は、若いコレッジョが受けた様々な影響がうかがえる点で重要です。アンドレア・マンテーニャの厳格な様式や、レオナルド・ダ・ヴィンチの柔らかなキアロスクーロなど、先人たちの影響が色濃く表れています。同時に、同時代の画家であるドッソ・ドッシやロレンツォ・コスタ、ガロファロなどの影響も受けており、特に聖母像の柔らかく感傷的なトーンは、ロレンツォ・コスタの影響が顕著です。

コレッジョはこれらの影響を巧みに融合させ、マントヴァ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、フェラーラの要素を独自の解釈で濾過し、壮大な風景画を備えた近代的な絵画を生み出しました。眠っている聖ヨセフと聖エリサベトの描写にはマンテーニャの様式が見られますが、ドッソ・ドッシの初期作品の影響も明らかです。

この作品の背景に描かれた風景は、16世紀初頭のエミリア地方で最も叙情的であり、ジョルジョーネやティツィアーノ・ヴェチェッリオといったヴェネツィア派との接触を示唆しています。

作品の帰属と制作年代

19世紀には、この作品はドッソ・ドッシ派やジローラモ・サヴォルド派の作品と考えられていましたが、1883年に美術史家ジャン・パウル・リヒターによってコレッジョの作品であると特定され、後にジョヴァンニ・モレッリによって確認されました。制作年代は、コレッジョがマントヴァに滞在していた1512年から1513年頃と考えられています。

作品の来歴

この作品の発注主や初期の来歴については不明な点が多いですが、1633年にローマの枢機卿ルドヴィコ・ルドヴィーシのコレクションに記録された作品である可能性が高いと考えられています。その後、19世紀後半に美術史家ジャン・パウル・リヒターの手に渡り、ミラノの実業家クリストフォロ・ベニーニョ・クレスピに売却されました。クレスピのコレクションは1913年にパリで競売にかけられましたが、コレクション全体の輸出許可と引き換えに、ブレラ美術館に売却されました。

この絵画は、コレッジョの初期の傑作として、美術史的に重要な作品です。その独特な構図、豊かな色彩、そして精緻な描写は、鑑賞者を魅了し続けています。

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