聖マタイの殉教 (カラヴァッジョ)

カラヴァッジョの「聖マタイの殉教」

ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョが1599年から1600年にかけて制作した油彩画『聖マタイの殉教』は、17世紀イタリア・バロック美術を代表する傑作の一つです。この作品は、ローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会にあるコンタレッリ礼拝堂のために描かれました。礼拝堂内では、祭壇に向かって右側に本作、左側に同時期に描かれた『聖マタイの召命』が飾られ、祭壇中央には後に制作された『聖マタイと天使』が配置されています。

制作の背景

サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会は、ローマ在住のフランス人たちの教区教会です。コンタレッリ礼拝堂は、フランス人マシュー・コワントレル（イタリア名マッテオ・コンタレッリ）が1565年に自身の墓所として権利を獲得しました。コンタレッリは当初、画家ジローラモ・ムツィアーノに礼拝堂の装飾を依頼しましたが、ムツィアーノは着手しませんでした。その後、コンタレッリの遺言執行者であるヴィルジーリオ・クレッシェンツィは、ジュゼッペ・チェーザリ（カヴァリエル・ダルピーノ）に装飾を依頼しましたが、これも中断。最終的に、1599年にカラヴァッジョに『聖マタイの召命』と『聖マタイの殉教』の制作が依頼されることになりました。

この依頼は、当時ローマでは珍しい大きなキャンバス画によるもので、カラヴァッジョにとって初めて教会の礼拝堂を飾るという公的な仕事でした。伝記作家のジョヴァンニ・バリオーネは、フランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿の尽力があったと述べています。コンタレッリ礼拝堂の装飾は、1600年の聖年に向けた事業の一環として進められました。

作品の詳細

『聖マタイの殉教』は、聖書や『黄金伝説』に基づいて描かれています。コンタレッリの指示書には、祭壇でミサを捧げる聖マタイが兵士に殺される場面を描くこと、多くの人物がその様子を見ていることなどが記されていました。

カラヴァッジョは、当初の構図を大幅に変更し、ミサの後、洗礼を施している最中に襲撃されるという場面を描きました。画面中央には、剣で襲いかかる若者と、倒れてシュロの葉を受け取ろうとするマタイが描かれています。周囲には、裸体の人物たちが恐怖で叫ぶ様子が描かれています。

X線調査から、当初の構図はコンタレッリの指示に従ったものであったことがわかっています。初期の構図では、マタイの姿がはっきりせず、人物像も小さかったようです。しかし、カラヴァッジョはこれらの要素を大幅に変更し、より劇的な場面を描き出しました。また、カラヴァッジョは、画面の奥に自画像を描き込んでいます。

本作は、過去の作品からの影響も受けています。特に、ムツィアーノの『聖マタイの殉教』やティツィアーノの祭壇画『殉教者聖ピエトロの死』からの影響が指摘されています。

作品の特徴

『聖マタイの殉教』の特徴として、以下の点が挙げられます。

劇的な構成: 聖マタイが殺される瞬間を捉えた劇的な構成。
光と影のコントラスト: 光と影を効果的に使い、場面の緊張感を高めています。
写実的な表現: 人物たちの表情や動きを写実的に描いています。
大胆な構図: 人物を前景に配置し、観る者を物語の中に引き込みます。

作品の評価と影響

『聖マタイの殉教』は、公開されるや否や大きな評判を呼びました。連日、多くの人々が作品を見ようと集まり、カラヴァッジョは一夜にしてローマで最も有名な画家の一人となりました。

カラヴァッジョは、この作品によって、その後のバロック美術の隆盛を牽引する存在となります。彼の革新的な表現は、多くの画家たちに影響を与えました。

まとめ

カラヴァッジョの『聖マタイの殉教』は、バロック美術の傑作として、今日でも多くの人々を魅了しています。その劇的な構図、光と影のコントラスト、写実的な表現は、美術史における重要な作品として高く評価されています。

この作品は、カラヴァッジョの芸術的才能を示すだけでなく、当時の社会や宗教観を反映した歴史的資料としても価値のある作品です。彼の作品は、鑑賞者に深い感動と考察の機会を与え続けています。

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