聖徳太子二王子像

聖徳太子二王子像（しょうとくたいしにおうじぞう）は、聖徳太子を描いた現存する最古の肖像画であり、「太子俗形御影（たいしぞくぎょうみえい）」、「唐本御影（とうほんみえい）」とも称されています。元は法隆寺が所蔵していましたが、1878年に皇室に献納され、現在は御物として大切に保管されています。

描かれた聖徳太子の姿

この肖像画に描かれているのは、推古天皇の摂政となった22歳以降の聖徳太子、いわゆる「摂政像」です。太子の肖像としては他に、幼少期の南無仏太子像や、父である用明天皇の病気平癒を祈る孝養像、経典を講義する講讃像などがよく知られています。

摂政像としては、他に四天王寺の楊枝御影や法隆寺の水鏡御影があります。これらは太子の自画像とされ、同じ正面向きの坐像ですが、それぞれ49歳、35歳の姿という伝承があります。摂政像の共通の特徴は、漆紗冠（しっしゃかん、幞頭（ぼくとう）とも）をかぶり、赤系の袍（ほう）を身に着け、両手に笏（しゃく）を持ち、腰に直刀を佩用している点です。

法隆寺の彫像『聖徳太子および侍者像』では、太子像は冕冠（べんかん）をかぶる姿で、講讃像の特徴を示していますが、袍を身に着け、笏を執る姿は摂政像の特徴であり、両方の要素が組み合わさっていると言えます。

『聖徳太子二王子像』の太子像は、1930年から1984年まで一万円札の図柄として使用されたため、現代ではよく知られていますが、歴史的には近代までそれほど有名ではありませんでした。摂政像としては坐像の方がむしろ有名であり、南無仏太子像、孝養像、講讃像も盛んに模写や彫像が作られ、一般にはより身近な太子の肖像でした。

『聖徳太子二王子像』に描かれている2人の侍者は、右前方（向かって左）が弟の殖栗皇子（えぐりのおうじ）、左後方（向かって右）が息子の山背大兄王（やましろのおおえのおう）とされています。侍者については、中国の閻立本（えんりっぽん）による『歴代帝王図巻』に倣っただけで、「個性なき侍者」とする説もあります。

肖像画の由来

法隆寺にいつ収蔵されたかは定かではありませんが、1140年に大江親通（おおえのちかみち）が法隆寺を訪れた際、この絵を「太子俗形御影」として記録したのが文献における初出です。「俗形」とは、袈裟を着ていない姿で描かれていることを指していると考えられます。

13世紀には、法隆寺の僧である顕真（けんしん）がこの絵を「唐本御影」と呼び、その由来について様々な説があることを紹介しました。その一つとして、唐人が聖徳太子の前に詣でた際、太子が唐風の姿で現れ、唐人がその姿を描き留めたという説を挙げています。これは、当時の人々が聖徳太子の姿を唐風俗と誤解し、その理由を説明しようとしたものと考えられます。

別の説では、百済の阿佐太子（あさたいし）の前に現れた姿であるとされています。また、1238年には関白の近衛兼経（このえかねつね）がこの肖像画を見て、日本の装束であり、昔は皆このような姿をしていたのだと述べたという話も紹介されています。兼経は、2人の童子も日本の王子であるとし、この肖像画が聖徳太子の「真実の御影」であると述べています。

服装について

黒川真頼（くろかわまより）は、『聖徳太子二王子像』に描かれている服装は太子の存命中に描かれたものではないと主張しています。その理由として、まず手にしている笏（しゃく）は647年以降に制度化されたものであり、それ以前には用いられていなかったとしています。また、聖徳太子が着ている袍（ほう）は、685年から697年までの皇族用の服であるとしています。

ただし、これらの主張には異論もあります。例えば、四天王寺に伝わる「唐花文袍残欠」は、聖徳太子が実際に着用した袍の残欠とされ、「太子緋御衣」と呼ばれています。この袍は茜色染による飛鳥時代の赤色の袍であり、『聖徳太子二王子像』の袍は、この袍の色に基づいて描かれた可能性も指摘されています。

別人騒動

1983年、東京大学史料編纂所の所長であった今枝愛真（いまえだあいしん）が、『聖徳太子二王子像』の表具に「川原寺」という墨書銘があると指摘し、この像が聖徳太子とは無関係ではないかという説を唱え、世間に衝撃を与えました。しかし、その後の調査で、この墨書は表装裂に織り込まれた文字の誤読であることが判明し、この説は否定されました。

像主と制作時期

中央に描かれた像主については、俗人の姿でありながら脇侍をともなった「三尊形式」で描かれており、これは像主を信仰の対象として描いたものと考えられています。当時、そのような人物は聖徳太子以外に見当たらないことから、像主は聖徳太子であると考えられています。

制作時期については、従来7世紀後半から8世紀前半の間とされてきましたが、近年では8世紀前半とする説が有力です。具体的な候補としては、太子信仰の高まりとともに法隆寺東院伽藍が創建された739年や、太子没後100年にあたる722年などが挙げられています。

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