肥後の石工

『肥後の石工』

『肥後の石工』は、児童文学作家である今西祐行によって書かれた作品で、その初版は1965年に実業之日本社から刊行されました。以降、2008年までに岩波書店をはじめとするさまざまな出版社から再出版されており、多くの読者に親しまれています。この作品は1966年に第6回日本児童文学者協会賞を受賞し、さらに第4回NHK児童文学奨励賞および第4回国際アンデルセン賞国内賞を受賞した実績を誇ります。

概要

本作は、江戸時代後期に実在した石工・岩永三五郎が薩摩藩に呼ばれ、甲突川五石橋をはじめとする石橋を築くという歴史に基づいています。初めて発表されたのは坪田譲治主宰の月刊『びわの実学校』の1965年2月号で、その後1965年の書籍化に際して大幅に改稿されています。初出から修正され、歴史的背景や作品の質もさらに向上しました。作品は史実をもとにしつつも創作が加えられており、読み手を引き込む魅力を持っています。

本書は地方の民衆に焦点を当て、具体的な石橋の工事という題材を通じて、これまでの偉人伝や英雄譚中心の児童文学に新しい視点を加えたと評されています。坪田譲治はこの作品について、「今まで、こんなに真面目な児童向けの小説を私は読んだことがありません」と感想を述べ、主人公の岩永三五郎に自身の人生の問題を重ね合わせていると指摘しています。

1969年12月には演劇としても上演され、新橋演舞場において前進座によって「肥後の石工」が上演されました。その脚本は野口達二が手がけ、演出は小沼一郎が担当しました。

あらすじ

物語の主人公である肥後の石工・岩永三五郎は、その卓越した技術が評価され、薩摩藩に呼び寄せられました。彼は橋を造る任務を担っていますが、設計には特殊な仕掛けが加えられています。これらの橋は攻撃を受けた際に、取り外し可能な石によって全体が崩れる仕組みになっているため、薩摩藩はこの秘密を知る三五郎や彼の仲間たちを肥後に返す気はまったくありませんでした。

三五郎の助手たちは、帰路の途中で薩摩藩の刺客に襲われ、波乱の展開を迎えます。また、徳之島の刺客・仁も三五郎を狙いますが、彼は三五郎の人柄を知り、藩の命令に疑問を持つようになります。このジレンマに苦悩する仁は、思わぬ選択をすることになり、結局は三五郎の身代わりとして乞食を殺し、薩摩藩に戻ります。

一方、三五郎は殺された乞食の遺児を肥後に連れ帰りますが、その子は父親の仇である三五郎を恨むことになります。この物語は、三五郎と遺児、そして仁の思いを描写しながら、それぞれの苦しみと葛藤が交差する様子を描いています。こうした深い人間ドラマを通して、読者は歴史の中に息づく人々の強い思いを深く受け止めることができるでしょう。

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