肥田忠政

肥田忠政：美濃の戦国武将、その生涯と一族の興亡

肥田忠政（ひだ ただまさ）は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、織田氏の家臣として美濃国（現在の岐阜県）を舞台に活躍しました。米田城主として知られ、その生涯は戦乱の世を生き抜いた武将の典型と言えるでしょう。

肥田氏の出自

肥田氏の先祖は、信濃国（現在の長野県）の諏訪氏の末裔で、源義仲に仕えていたと伝えられています。その後、肥田忠直の代に美濃国肥田村に移住し、さらに米田庄福島へと拠点を移して肥田氏を名乗るようになったとされています。また、美濃源氏の家系で、土岐氏を経て肥田氏を名乗るようになったという説もあります。いずれにしても、肥田氏は美濃国に根ざした武士の一族であったことは確かです。

米田城築城と勢力拡大

忠政は、父である肥田忠直（軌吉）の子として生まれました。当初は父が権現山に築いた福島城にいましたが、永禄3年（1560年）に加茂山に移築し、米田城を築城しました。これが肥田氏の本拠地となり、忠政はこの城を中心に勢力を拡大していきます。永禄10年（1567年）には、子の長寿丸が下川辺城（毛利山城、牛ヶ鼻城とも）を攻略する際に、家臣の裏切りによって戦わずして入城することに成功しました。さらに、元亀年間（1570年 - 1573年）には、堂洞城主の岸信周と盟約を結び、馬串山城と毛利山城を交換しました。このように、忠政は外交と武力を巧みに使い分け、着実に勢力を拡大していったのです。

織田信長への服属と活躍

織田信長が美濃に侵攻すると、忠政はいち早く信長に従い、旧領地の知行を認められました。信長の家臣となった忠政は、各地の戦いに参加し、その武勇を示しました。特に、『信長公記』によれば、高野口（現在の瑞浪市）での武田信玄との戦いでは、森可成と共に先駆けを務めたとされています。また、元亀元年（1570年）には、森可成や織田信治と共に宇佐山城を守備し、浅井・朝倉軍の攻撃を受けながらも、武藤五郎衛門や肥田彦左衛門らと共に城を死守しました。この戦いで森可成と織田信治は戦死しましたが、忠政の奮戦によって城は守り抜かれました。

本能寺の変と悲劇的な最期

天正10年（1582年）、忠政は金山城主の森長可から馬串山譲渡を求められますが、これを拒否しました。しかし、同年6月2日に本能寺の変が発生し、織田信長が討たれると、事態は急変します。森長可は、信長と共に討死した弟たちの葬儀を名目に、6月22日に米田城を急襲しました。当時、城内では男子誕生の慶事中で、防戦の用意ができていなかったため、忠政は妻子を連れて逃れましたが、駆けつけた息子の長寿丸は銃撃を受けて命を落としました。忠政は妻子を預け、加治田城主の斎藤利堯を頼って森軍と戦いましたが、敗れて家臣の伊藤忠助と多田角右衛門が捕らえられました。この二人はその後、森長可の家臣となり、小牧・長久手の戦いで長可と共に討死しました。

忠政の最期については、諸説あります。『南北山城軍記』によれば、大島光義に討たれたとされていますが、実際にはこの時、光義は斎藤側で長可と戦っていました。また、加治田城内で自刃したとも伝えられています。別の説では、岳父である金森長近の姻戚である鉈尾山城主の佐藤秀方を頼り、その地で病死したとも言われています。いずれにしても、忠政は本能寺の変によって、悲劇的な最期を迎えたことは確かでしょう。

子孫の繁栄

忠政の子の忠親は幼少だったため、祖父の金森長近が養育しました。成長後、徳川家康に謁見し、武儀郡内の極楽寺・生櫛・下有知で1,000石の所領を得て、寄合に列しました。忠親の子の忠頼以降も、代々徳川将軍家に仕え、繁栄しました。また、忠頼の弟の忠寅の家系は、尾張徳川家に仕えました。このように、肥田忠政の血筋は、江戸時代を通じて武士として生き残り、その名を後世に伝えたのです。

肥田忠政は、戦国時代の激動期を生き抜いた武将の一人であり、その生涯は、武士の興亡を象徴するかのようです。その勇猛さと知略、そして一族の歴史は、後世に語り継がれるべきでしょう。

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