育鵬社

株式会社育鵬社について

株式会社育鵬社は、日本の教育界において注目される出版社であり、2007年8月に設立されました。設立当初、株式会社育鵬社は「新しい歴史教科書をつくる会」から分派した「教科書改善の会」に基づいて教科書を出版するための組織として立ち上げられ、扶桑社の完全子会社として運営されています。この設立時の背景には、教育の現場で求められる新たな歴史観や教科書内容の改善を目指す意図があります。育鵬社の名称には、「鵬」という言葉が「育てる」という意味を持ち、設立者である片桐松樹社長の願いが込められています。すなわち、「子供たちよ、大きく育て！」というメッセージを表現しているのです。

教科書の特徴と批判

育鵬社が発行する教科書は、独自の視点から歴史や公民を取り扱っていますが、その内容については多くの議論があります。例えば、嘉奈大学名誉教授の高嶋伸欣氏は、育鵬社の教科書が世界最大の墳墓である大仙古墳について言及する際にその構造の技術的な未熟さを指摘し、過度な自慢になっていると批判しました。また、縄文時代を世界四大文明に匹敵するとする記載にも、安倍政権の影響を受けているのではないかと疑問を呈しています。

さらに、モンタナ州立大学の山口智美教授は、育鵬社版の中学公民教科書が東日本大震災に関連して天皇夫妻の写真を掲載し、国家の危機を乗り越えるために天皇が精神的支柱であったと強調している点を問題視しています。彼女は、この教科書が禁忌を助長するようなナショナリズムの要素を持ち、改憲を推進する内容が含まれていると指摘しました。加えて、教科書には安倍晋三元首相の写真が出現し、多くの著名な批評家から「安倍ファンブック」と揶揄されることもあります。

不祥事と教科書採択の動向

育鵬社の運営には不祥事の影が付きまとっています。2015年には大阪市立中学校の歴史・公民教科書に関するアンケート動員疑惑が浮上しました。これは、育鵬社の社員が教科書採択を推進するための組織的な動員を行ったとの指摘があり、地元議会でも真相究明が求められました。文部科学大臣もこれに対して軽率な行動だとコメントし、育鵬社に反省を促しました。

また、教育長に対して検定中の教科書を先行して閲覧させていたことが発覚した際は、業界内での信頼性や公平性を損なう行為と見なされ、批判が寄せられました。公民と歴史の教科書における育鵬社の占有率は2016年度にはかなり高かったものの、2020年には大幅に減少し、他社の教科書にシフトが進む現象が見受けられました。

つくる会との関係

新しい歴史教科書をつくる会との関係も複雑です。育鵬社の設立後、つくる会は扶桑社に対して著作権の問題を指摘する文書を送付し、従来の歩みを清算しようとしています。この対立は、教育界における教科書の発行や採択を巡る勢力図の変化を反映しており、育鵬社の教科書に対する支持と反発が交錯する状況となっています。

結論

株式会社育鵬社は、教育を通じて日本の未来を育む重要な役割を担っていると同時に、その教科書の内容と運営に関しては多様な批判や疑問が寄せられています。これらの問題は単なる企業の在り方を超え、教育方針や歴史認識のあり方をも問う課題として、今後も注視していく必要があるでしょう。

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