胡儼

胡儼（こ げん、1361年 - 1443年）は、明代に活躍した学者であり官僚です。字は若思といい、隆興府南昌県の出身でした。

生涯

若くして学問に励み、天文学、地理学、律暦（暦法）、医学、卜占など、幅広い分野で深い知識を身につけました。洪武年間に挙人となり、華亭教諭に任官しましたが、母親の死去により一度辞職し喪に服しました。喪が明けると長垣教諭に転じ、その後、より働きやすい地を求めて余干教諭へと異動しました。この、学官が自らの都合で任地を選ぶという慣例は、胡儼の例が最初であるとされています。

1399年（建文元年）、その才能を認められ、推薦を受けて桐城知県に任命されました。桐城県では、桐陂水の分水工事を実施し、農地を灌漑することで農民の生活を豊かにしました。また、桐城県に虎が出現し人々を襲う事件が発生した際、胡儼は斎戒沐浴を行い神に祈りを捧げたところ、虎は逃げ去り、桐城県の人々は感謝の意を込めてその神を朱邑祠に祀ったと伝えられています。1402年（建文4年）、副都御史の練子寧の推薦を受けて建文帝の側近として仕えることになりましたが、燕王朱棣（後の永楽帝）の軍がすでに長江を渡河していたため、その活躍の機会は訪れませんでした。

永楽帝が即位すると、胡儼は自ら欽天監試の受験を願い出ました。試験の結果、胡儼が星象や気候の学問に精通していることが認められました。その後、解縉の推薦により翰林検討に任じられ、解縉らと共に文淵閣に宿直しました。その後、侍講、左庶子と順調に昇進しましたが、父親の死去により辞職し喪に服しました。しかし、間もなく原職に復帰しています。1404年（永楽2年）には国子監祭酒に任命され、その厳格な法運用は、不正を行った国子生が辺境に送られるという事例を生みました。

1409年（永楽7年）、永楽帝が北京に行在を移すと、胡儼も北京に召還されました。翌1410年（永楽8年）に永楽帝が第一次漠北遠征に出陣すると、胡儼は祭酒の職を兼任したまま侍講として翰林院の事務を管掌し、皇太孫朱瞻基（後の宣徳帝）を補佐して北京の留守を任されました。1421年（永楽19年）には、北京の国子監祭酒に転任しました。胡儼は『太祖実録』、『永楽大典』、『天下図志』の編纂の総裁官を務め、その博学と実務能力を遺憾なく発揮しました。

1425年（洪熙元年）、病を理由に辞職を願い出ると、洪熙帝からその功績を労われ、祭酒を兼任したまま太子賓客に進みました。その後、致仕し故郷に戻りました。

宣徳帝が即位すると、胡儼は礼部侍郎として召されましたが、辞退し故郷での隠居生活を送りました。故郷に帰ってからも20年間、地方の重臣たちはみな胡儼を師と仰ぎ、教えを請いました。1443年（正統8年）8月、83歳でその生涯を閉じました。著書に『頤菴集』30巻があります。

胡儼は、学者、官僚、教育者として多岐にわたる分野で才能を発揮し、明代初期の政治と文化に大きく貢献しました。

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