九州自然歩道

九州自然歩道：九州を巡る長大な自然の道

九州自然歩道は、福岡県から鹿児島県まで、九州7県を縦断する総延長約3,000kmにも及ぶ長距離自然歩道です。1980年に全線開通し、日本で2番目に整備されたナショナル・ロングトレイルとして、多くのハイカーに愛されています。愛称は「やまびこさん」です。

概要

この自然歩道は、1969年に環境庁（現環境省）が提唱した長距離自然歩道構想に基づいて計画されました。東海自然歩道の整備が進む中、九州・山口経済連合会（現九州経済連合会）が観光振興の観点から九州での整備を提唱し、九州知事会とともに計画案を策定しました。各県知事からの要望を受け、環境庁の支援のもと、1975年に整備が開始され、5年の歳月を経て1980年に全線開通しました。

九州自然歩道の大きな特徴は、単に自然の中を歩くだけでなく、太宰府天満宮や長崎平和公園などの歴史的な名所もコースに含まれている点です。これにより、九州の豊かな自然と文化の両方を体感できるのが魅力です。また、ルート選定においては、既存の道路をできるだけ活用するという方針が取られたため、地元の生活道である峠道や里道、林道などを利用している箇所が多いのも特徴です。

起点となるのは北九州国定公園の皿倉山で、そこから九州を一周するコースが設定されています。南端は九州本土の最南端である佐多岬となっています。コースは、雲仙天草国立公園、阿蘇くじゅう国立公園、霧島錦江湾国立公園など、4つの国立公園と4つの国定公園を経由します。コースのバリエーションも豊富で、手軽なハイキングコースから本格的な山岳地帯まで、さまざまなレベルのハイカーが楽しめます。

歩くことでしか出会えない絶景も数多くあります。活火山の霧島連山、日本最大級の照葉樹林が残る綾、迫力ある阿蘇のパノラマ、飯田高原のススキ、紅葉と樹氷が美しいくじゅう連山など、変化に富んだ自然景観が楽しめます。また、砂丘の風紋が美しい吹上浜、穏やかな海岸線と多島海の天草、荒波に削られた坊津のリアス式海岸など、海にまつわる景観も見逃せません。さらに、畑や果樹園、田んぼが広がる里山、潮風が心地よい漁村、異国情緒が漂う教会、そして秘湯など、九州ならではの多様な魅力に出会うことができます。

しかし、開通から長い年月が経過し、道標や施設の老朽化、新規道路の建設や自然災害によるルートの分断など、様々な課題が生じています。そのため、歩道の利用が減少し、認知度が低下するとともに、維持管理も困難になってきています。

各県のコース

九州自然歩道は、7県それぞれに特徴的なコースがあります。

福岡県：皿倉山を起点とし、福智山、平尾台、英彦山などを経て、大宰府へと至る約261kmのコースです。ツクシシャクナゲの群生地や嘉穂アルプスなど、変化に富んだ山岳景観が楽しめます。
佐賀県：長崎県境から福岡県境まで、黒髪山、八幡岳、天山、脊振山、九千部山などの山々を結ぶ約125kmのコースです。県立自然公園を結び、豊かな自然を満喫できます。
長崎県：口之津港から雲仙、長崎市内を経て、西彼杵半島を縦断し、佐賀県境へと至る約562kmのコースです。山岳、渓流、海岸など変化に富んだ自然に加え、世界文化遺産にも登録されたキリスト教関連の遺産も巡ることができます。
熊本県：人吉市から阿蘇、天草諸島へと至る約563kmのコースです。人吉盆地、五木村、五家荘、南阿蘇外輪山、阿蘇山など、変化に富んだ地形と自然が楽しめます。
大分県：犬ヶ岳山系から、耶馬溪、くじゅう連山、祖母山などを経て、宮崎県境へと至る約163kmのコースです。二重メサ、温泉、高原など、多様な景観が楽しめます。
宮崎県：高千穂町から高原町まで、祖母傾山系や霧島山系などの山岳地帯を縦断する約370kmのコースです。日本の滝100選に選ばれた行縢の滝や、尾鈴山瀑布群など、美しい滝や渓谷が楽しめます。
鹿児島県：霧島市から大隅半島を縦断し、薩摩半島を一周する約560kmのコースです。霧島連山、桜島、開聞岳、佐多岬など、変化に富んだ火山地形や海岸線が楽しめます。

沿革

1969年：厚生省（現厚生労働省）が長距離自然歩道構想を提唱。九州経済連合会が九州での整備を提唱。
1970年：九州経済連合会と九州知事会が計画案を策定。東海自然歩道の整備開始。
1975年：九州自然歩道の整備開始。
1980年：九州7県全長2,091kmの全線が開通。その後、各県の延長事業により全長3,000kmへ。
2012年：普及のため、有志により九州自然歩道フォーラムが設立。
2013年：「あるこ！～九州自然歩道の旅～」が西日本新聞朝刊に連載開始。
2015年：九州自然歩道フォーラムの公式HPが公開。
* 2021年：「九州自然歩道40周年記念シンポジウム」が開催。

シンボルマーク

九州自然歩道のシンボルマークは、カタツムリです。これは、「小さいながらも自然の中に生きていて、静かに歩く」というイメージから選ばれました。全線開通当初は、カタツムリの銅版が道標として設置されましたが、盗難などにより、現在は木彫りやプリントで描かれています。

まとめ

九州自然歩道は、九州の豊かな自然と文化を体感できる、魅力あふれる長距離自然歩道です。ぜひ、この道を歩き、九州の魅力を再発見してみてはいかがでしょうか。

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