腸液

腸液とは

腸液（ちょうえき）は、消化管の一部である小腸の、特に空腸と呼ばれる領域から分泌される、ややアルカリ性の性質を持つ体液、すなわち消化液の一つです。成人では一日に約2,400ミリリットルもの量が分泌されると考えられています。この消化液は、口から始まり胃、十二指腸、小腸へと続く消化の旅において、最終段階の処理を担う重要な役割を果たしています。

消化の役割と含まれる酵素

腸液の主要な機能は、先行する胃液や膵液によってある程度分解された栄養素を、さらに細かい分子へと分解することです。特に、タンパク質の消化過程で生じたペプチドなどの分解物を、体内に吸収可能な最小単位であるアミノ酸へと最終的に分解する働きが中心となります。このプロセスには、腸液に含まれる酵素であるペプチダーゼが深く関与しています。

また、腸液にはリパーゼと呼ばれる脂肪分解酵素も含まれていますが、その含まれる量は比較的少ないとされています。このため、書物によっては腸液の主な働きとして脂肪消化を挙げない場合もあり、見解が分かれることがあります。少量のリパーゼは、脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解するのに役立ちます。

さらに、遺伝情報の伝達に関わる核酸（DNAやRNA）を分解するためのヌクレアーゼも腸液に含まれており、食物中の核酸の消化を助けています。

炭水化物の消化における腸液の位置づけ

かつては、腸液自体がデンプンなどの炭水化物をブドウ糖（グルコース）のような単糖類に直接分解する酵素を含んでいると考えられていた時期もありました。しかし、現在の理解では、炭水化物の消化は主に膵液に含まれるアミラーゼによって行われ、デンプンはマルトースなどの二糖類にまで分解されます。

これらの二糖類を最終的に単糖類（グルコース、フルクトース、ガラクトースなど）へと分解し、小腸から吸収可能な形にするのは、腸液に含まれる酵素ではなく、小腸の上皮細胞の表面（刷子縁）に存在する二糖類水解酵素群の働きによるものです。代表的なものとして、マルトースをブドウ糖に分解するマルターゼ、乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解するラクターゼ、蔗糖をブドウ糖と果糖に分解するスクラーゼ（インベルターゼ、サッカラーゼとも呼ばれます）、そしてイソマルターゼやトレハラーゼなどが挙げられます。これらの酵素が、二糖類を単糖類へと分解することで、腸管からの効率的な栄養吸収が可能となるのです。

したがって、腸液そのものは炭水化物を単糖類に分解する直接的な働きは持たず、むしろ小腸上皮細胞の酵素がその最終消化を担っていると言えます。

消化以外の機能

消化液としての役割のほかに、腸液は腸管の保護にも重要な役割を果たします。例えば、排便時や、何らかの原因で異物が肛門・直腸内に侵入した場合などに、腸壁の粘膜を潤滑にして保護し、物理的な刺激や損傷を和らげるために分泌量が増加することがあります。このように、腸液は消化吸収を助けるだけでなく、腸管の健康維持にも貢献しているのです。

腸液は、そのアルカリ性の性質、含まれる多様な酵素、そして粘膜保護作用により、小腸における栄養素の最終的な取り込みと腸管の健康を支える、生体にとって不可欠な体液と言えるでしょう。

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