興世書主

興世書主（おきよのふみぬし）は、平安時代初期に活躍した貴族です。文主とも記されることがあり、吉田連を氏族としていました。後に興世朝臣に改姓しています。内薬正である吉田古麻呂の子として生まれ、官位は最終的に従四位下・治部大輔にまで昇りました。

生い立ちと経歴

吉田氏は、百済からの渡来氏族であり、書主の祖父と父は共に侍医を務め、儒学にも深く通じていました。彼らの下には多くの門弟が集まったと伝えられています。書主自身も、平城朝では尾張少目や縫殿少允といった役職を歴任し、官僚としてのキャリアをスタートさせました。

嵯峨朝に入ると、書主は内匠少允を経て、弘仁4年（813年）には左兵衛権大尉に任じられました。その後も、左衛門大尉兼検非違使尉、右近衛将監と、武官としてのキャリアを重ねました。弘仁7年（816年）には外従五位下・織部正に叙任され、弘仁9年（818年）には和泉守として地方官に転じましたが、その名声は高く、各地で優れた行政手腕を発揮しました。弘仁12年（821年）には従五位下に、弘仁14年（823年）には従五位上・備前守に叙任され、備前守としては、平安京へ向かう道路を清らかに整備するなど、その統治能力は高く評価されました。また、嵯峨天皇からは非常に寵遇され、その進退は常に天皇の関心事であったとされています。

天長4年（827年）には左京亮に転任し、翌天長5年（828年）には筑後守に任じられましたが、病気を理由に赴任せず、天長8年（831年）には再び左京亮に還任しました。仁明朝の承和4年（837年）には、一族の高世らと共に興世朝臣姓への改姓を願い出て、これが許されました。その後、承和9年（842年）には正五位下、承和14年（847年）には従四位下へと昇進し、この間には信濃守や木工頭といった要職も務めました。

文徳朝の嘉祥3年（850年）には、治部大輔に任じられましたが、老いによる衰えを理由に山林に隠棲し、仏道に専念するようになりました。同年11月6日に73歳で亡くなっています。最終官位は従四位下・治部大輔でした。

人物像

書主は、恭しく謹み深い性格で、その立ち居振る舞いは模範とすべきものであったと伝えられています。儒学に通じていただけでなく、身軽で敏捷であり、跳躍力や水泳にも優れていたため、まるで武芸に秀でた人物のようでもありました。また、和琴の名手でもあり、大歌所の別当として節会では常に供奉しました。さらに、新羅琴の名人であった沙良真熊からその秘伝を伝授されたという逸話も残っています。

官歴

『六国史』には、以下の官歴が記されています。

延暦25年（806年）：尾張少目
大同4年（809年）4月：縫殿少允
大同5年（810年）正月：内匠少允
弘仁4年（813年）5月：左兵衛権大尉
弘仁7年（816年）2月：左衛門大尉兼検非違使
弘仁7年（816年）時期不詳：正六位下。右近衛将監
弘仁8年（817年）正月7日：外従五位下。時期不詳：織部正
弘仁9年（818年）正月：和泉守
弘仁12年（821年）正月：従五位下
弘仁14年（823年）正月7日：従五位上。時期不詳：備前守
天長4年（827年）：左京亮
天長5年（828年）2月：筑後守
天長8年（831年）2月：左京亮
承和元年（834年）5月22日：左京亮
承和4年（837年）6月28日：吉田宿禰から興世朝臣に改姓
承和7年（840年）正月30日：信濃守
承和9年（842年）正月7日：正五位下
承和12年（845年）8月7日：木工頭
承和14年（847年）正月7日：従四位下
嘉祥3年（850年）8月5日：治部大輔。11月6日：卒去（従四位下治部大輔）

参考文献

森田悌『日本後紀 （下）』講談社〈講談社学術文庫〉、2006年
森田悌『続日本後紀』（上下巻）、講談社〈講談社学術文庫〉、2010年

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