興真寺

興真寺（こうしんじ）

富山県南砺市、かつて利賀村と呼ばれた山間部の利賀地区にある興真寺は、真宗本願寺派に属するお寺です。

歴史

五箇山の地に浄土真宗の教えが広まり始めたのは、室町時代の後期にあたる15世紀後半のこととされています。この時期、越前国（現在の福井県）の和田本覚寺が、この地域への布教活動を積極的に行っていました。和田本覚寺は、本願寺第5代の綽如（しゃくにょ）の庶流の子孫たちが率いる「北国一家衆」と呼ばれるグループの中心であり、彼らが北陸各地で熱心に布教を展開する中で、五箇山にも教えが伝えられました。

一方、北国一家衆よりもやや遅れて五箇山への布教に乗り出したのが、京の今小路常楽寺です。常楽寺は主に五箇山の東側、利賀谷（とがだに）と小谷（おたに）において門徒を増やしていきました。越中国内にあった常楽寺の下寺院である室牧称念寺（現在の富山市八尾町にあり、後に高岡市に移転）を経由して、常楽寺の教えが八尾から山を越え、利賀谷に入り、さらに小谷へと伝えられたのではないかと考えられています。常楽寺の門徒は利賀谷・小谷それぞれの中央部に多く集まっていましたが、これらの地域の北側は井波瑞泉寺、南側は坂上西勝寺といった他寺院の勢力圏であったため、門徒数を大幅に増やすことは難しかったようです。

天文21年（1552年）10月27日に作成された「五箇山十日講起請文（ごかやま じっこう きしょうもん）」には、五箇山の各村の有力者の署名が記されています。しかし、興真寺のルーツとされる下利賀の有力者に該当する人物の署名は、この文書の中には見られません。ただし、この起請文で「利賀谷」の筆頭に署名している「又大郎家長（またたろう いえなが）」こそが、後の下利賀道場、すなわち興真寺の前身を築いた人物ではないか、とする説も存在します。

戦国時代、常楽寺は戦乱の影響を受け、本願寺とともに各地を転々とせざるを得ませんでした。そのため、五箇山の門徒たちを直接教化することが困難な状況が続きました。この間、砺波郡（となみぐん）にあり、常楽寺の下寺院の中でも有力であった清水真光寺（現在の小矢部市）が、五箇山の常楽寺門徒たちを取りまとめる役目を担うようになります。この結果、五箇山の常楽寺門徒のほとんどが、清水真光寺の門徒へと移っていきました。

その後、本願寺教団内で東西に分かれる大きな対立が起こると、清水真光寺もこれに呼応して分裂しました。東の本願寺に属する池尻真光寺（現在の南砺市旧井口村）と、西の本願寺に属する杉木新町真光寺（現在の砺波市出町）です。これに伴い、五箇山の真光寺門徒たちも、どちらかの真光寺に分かれてついていくこととなりました。さらにこの時、小谷地区の下出（しもいで）、大崩島（おおくずしま）、渡原（わたりはら）の三つの集落の門徒たちは、西本願寺に直接願い出て、どこの寺院にも属さない直参（じきさん）門徒となり、越中における西本願寺派の指導役である伏木勝興寺（ふしき しょうこうじ）の預かりとなる道を選びました。

現在の興真寺の源流は、常楽寺門徒から杉木新町真光寺の傘下へと移った下利賀の道場にあります。江戸時代の寛政年間（1789年-1801年）に五箇山で行われた道場の調査記録である「五ケ山之道場しらべ」には、「礪波郡杉木新町村真光寺道場　下利賀村　助左衛門」と記されており、当時の道場の所在地や、道場主が助左衛門という人物であったことが確認できます。この助左衛門の家系が代々道場坊（道場の責任者）を務め、明治維新の後には野原氏を名乗るようになりました。そして、昭和40年（1965年）に正式に「興真寺」の寺号が許され、同じ年に建てられた本堂が今も使われています。

このように、興真寺は五箇山における浄土真宗の複雑な歴史、すなわち常楽寺、清水真光寺、そして本願寺の東西分裂という変遷を経て、現在の姿に至った寺院です。利賀谷から小谷にかけての地域には、興真寺と同じように、元は常楽寺の下にあった道場が多く存在しており、それらは後に真光寺の下に移った後、本願寺の東西分裂によって、池尻真光寺系、出町真光寺系（興真寺はこちら）、そして西本願寺直参・勝興寺預かりの三つの流れに分かれて今日に至っています。興真寺の歴史は、五箇山という独特な地域における真宗信仰の伝わり方とその変化を物語っています。

近隣情報

興真寺は、利賀市民センター、道の駅利賀、「味茶房 とがとが」、南砺市利賀福祉医療センターといった、利賀地区の中心的な施設から徒歩数分の距離にあります。

参考文献

金龍 静『富山県史 通史編Ⅱ 中世』「蓮如教団の発展と一向一揆の展開」
利賀村史編纂委員会 編『利賀村史1 自然・原始・古代・中世』
利賀村史編纂委員会 編『利賀村史2 近世』
利賀村史編纂委員会 編『利賀村史3 近・現代』

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