舎衛城

舎衛城（しゃえいじょう）

古代コーサラ王国の都

舎衛城は、かつて古代インドに栄えたコーサラ王国の首都として知られる都市です。仏教の歴史において極めて重要な役割を果たしました。現在のインド、ウッタル・プラデーシュ州北東部に位置し、ラプティ川のほとりにその旧跡が見られます。仏教の開祖である釈迦牟尼仏が最も長く滞在し、教えを説いた場所として、数多くの仏典にその名が記されています。

名称の由来と様々な呼び名

この都市は歴史の中でいくつかの名称で呼ばれました。サンスクリット語では「シュラーヴァスティー（Śrāvastī）」、パーリ語では「サーヴァッティー（Sāvatthī）」と呼ばれます。これらの名称は、音写され「室羅伐」「室羅伐悉底」となり、略して「舎衛」と呼ばれました。また、意味からの漢訳としては「聞者」「聞物」「豊徳」「好道」といった表現も使われます。

その名前の由来については複数の説が伝えられています。一つには、この地にサヴァッタァ（Savattha）という仙人が住んでいたことにちなむという説。また、交通の要衝として商業が栄え、「どんなものがある？」と問われれば「なんでもある」（Sabbamm atthi）と答えるほどだったことから名付けられたとする説もあります。さらに、多くの名声ある人物や優れた品々がここから生まれたため、この名がついたという説も存在します。

仏教史における重要性

舎衛城は、釈迦が約25年という長い期間を過ごし、集中的に教えを説いた仏教史上特別な場所です。『大智度論』などによれば、釈迦はここでコーサラ国王バーセーナディや、祇園精舎を寄進した裕福な商人スダッタ長者（給孤独長者）など、多様な人々を教化しました。バーセーナディ王やその子ビルリ王もこの城を居所としていました。

当時のコーサラ国は、南北に分かれていたという見解があります。そのため、南方のコーサラ国と区別するために城名を国号としたという説や、北方を単にコーサラ国、南方を南コーサラ国と呼んだという説があります。玄奘の『大唐西域記』では南方をコーサラ国とし、『慈恩伝』では北方をシュラーヴァスティー国（舎衛国）、南方をコーサラ国と記すなど、記述に違いが見られます。

現在のウッタル・プラデーシュ州にあるサイヘート・マヘート遺跡群のうち、マヘート（Mahet）の遺跡が舎衛城の城壁跡と考えられています。このマヘートに隣接するサヘート（Sahet）には、釈迦ゆかりの有名な修行道場である祇園精舎の跡が残されており、重要な巡礼地となっています。

「舎衛の三億」という言葉

仏の教えに触れることの難しさを示す仏教用語に「舎衛の三億」があります。『大智度論』や『摩訶止観』を出典とするこの言葉は、古代インドの「億」が現在の10万を意味することから、30万戸を指します。

『大智度論』第9巻によれば、釈迦が生きていた頃、舎衛城には合計9億戸（90万戸）の家がありました。これを、仏陀を直接見た3億戸（30万戸）、仏陀の存在を耳にして知った3億戸、そして全く見聞きしなかった3億戸の三つに分類しています。この分類は、仏が出現し、その教えが人々に届く機会がいかに限られていたかを示す例えと解釈されています。

現代の舎衛城周辺

現代の舎衛城周辺は、主に仏教の巡礼地として多くの人々が訪れます。特に隣接するサヘートの祇園精舎跡は中心的な巡礼地であり、香堂や菩提樹の下で瞑想や読経が行われています。また、この地域にはタイ、韓国、スリランカ、ミャンマー、チベット、中国など、様々な国の仏教宗派が建立した寺院や僧院が点在し、国際的な仏教交流の拠点ともなっています。これらの施設は、巡礼者や観光客に宿泊や礼拝の場を提供しています。

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