船上山の戦い

船上山の戦い（1333年）の詳細解説：後醍醐天皇の復権と鎌倉幕府滅亡の転換点

船上山の戦いは、元弘3年（正慶2年）1333年に、後醍醐天皇を奉じた伯耆国の武将・名和長年と、鎌倉幕府軍との間で起こった元弘の乱における重要な戦いの一つです。船上山は、現在の鳥取県東伯郡琴浦町に位置しています。

戦いの背景

元弘の乱により流罪となっていた後醍醐天皇は、隠岐を脱出し、伯耆国名和（現在の鳥取県西伯郡大山町名和）で海運業を営んでいた名和氏を頼り、名和の湊にたどり着きました。これに応じた名和長年は、船上山にて挙兵し、隠岐守護の佐々木清高らの軍勢を撃退しました。この勝利が、後醍醐天皇の復権、ひいては鎌倉幕府滅亡への大きな転換点となりました。

合戦までの経緯

元弘2年/正慶元年（1332年）、鎌倉幕府転覆計画を企てた後醍醐天皇が捕らえられ、隠岐に流されました（元弘の変）。隠岐守護の佐々木清高は、天皇一行を黒木御所に幽閉しました。当時、西日本を中心に後醍醐天皇の皇子である護良親王を奉じた楠木正成などの武士たちが反幕府活動を続けており（赤坂城・千早城の戦いなど）、倒幕の機運が高まっていました。清高は、有志による後醍醐天皇奪還を警戒し、御所を厳重に監視していました。

しかし、1333年4月19日、後醍醐天皇は隠岐からの脱出に成功しました。出雲を目指しましたが、風により東に流され、隣国の伯耆国の名和の港に漂着しました。名和の地の地頭であった名和氏は、漂着した後醍醐天皇を保護し、同年4月23日に、守りやすい船上山にて挙兵しました。

船上山の戦いの詳細

後醍醐天皇を逃してしまった佐々木清高は、後醍醐天皇を奪還するため、手勢を率いて船上山に攻め寄せました。伯耆国の小鴨氏や糟屋氏らも佐々木清高に応じて参陣しました。一方、後醍醐天皇側には、大山寺が援軍に駆けつけ、別当であった名和長年の弟である信濃坊源盛も僧兵を引き連れて船上山へ救援に向かいました。船上山に籠もる名和長年は、木に多数の旗を括りつけ、自軍を大軍であるかのように見せかけ、幕府軍を牽制しました。

4月24日より幕府軍は攻勢を仕掛けましたが、指揮官の一人である佐々木昌綱が戦死。さらに搦手側の佐々木定宗らが降伏しました。その報を知らずに船上山を攻め上がった佐々木清高の本軍は、夕刻の暴風雨に乗じた名和軍の襲撃に混乱し、多数の兵が船上山の断崖絶壁から落ちるなどの被害を受けました。佐々木清高は命からがら小波城へと逃げ帰りました。

合戦後の情勢と影響

幕府方の敗北を受け、後詰で出雲国内にいた佐々木氏の一族である富士名義綱、塩冶高貞らが天皇方へ寝返るなど、幕府軍は混乱を極めました。一方、後醍醐天皇は戦いの後に船上山に行宮を設置し、ここから討幕の綸旨を発しました。『太平記』によれば、3月3日の午後より近隣の諸将が徐々に天皇方に馳せ参じたとされています。

その後、天皇方は攻勢に転じ、名和行氏らが佐々木清高の拠点である小波城を攻略。続いて、伯耆守護代である糟屋重行の居城である中山城を攻略し、佐々木清高と糟屋重行は京都へと撤退しました。さらに小鴨氏の居城である小鴨城を攻撃し、小鴨元之らを降伏させるなど、一帯の幕府勢力を駆逐しました。

後醍醐天皇の復帰と挙兵を知った鎌倉幕府は、船上山の討伐部隊の援軍として、山陽道からは名越高家、山陰道からは足利高氏を送りました。しかし、名越高家は赤松則村に討ち取られ、足利高氏は反旗を翻し六波羅を攻め滅ぼしました。京都へと逃れた佐々木清高と糟屋重行は、同年5月9日に近江番場の蓮華寺にて六波羅探題北条仲時らと共に自害しました。これにより船上山討伐の幕府軍は完全に崩壊し、同年5月23日、後醍醐天皇は帰洛を果たしました。

その他の逸話

船上山へ運びきれない米は、幕府軍に利用される事を防ぐため、館ごと米倉を焼き払ったとされ、名和氏の館跡とされる名和神社の裏手からは焼けた米が出土しています。
名和一族は弓術に優れていたとされ、長綱寺には修練に使用したとされる的石が存在します。
伝説によれば名和長年も弓の名手であり、五人張りの強弓を引き、一矢で二人の敵兵を射抜いたとされています。
後醍醐天皇の行宮の位置ははっきり分かっていませんが、江戸時代中期に編纂された伯耆民諺記を元に船上山神社の奥宮付近の屋敷跡という説が有力視されています。
鳥取県西伯郡大山町には後醍醐天皇の行幸にちなんだ御来屋という地名が今も存在します。

関連事項

日本の合戦一覧
太平記
梅松論
* 小波城

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