色川三中

色川三中（いろかわ みなか）

色川三中（1801年8月3日 - 1855年8月5日）は、江戸時代後期の国学者であり、同時に商人としてもその手腕を発揮した人物です。諱は英明、幼名は桂輔、通称は弥三郎、三郎兵衛と称し、東海、瑞霞圓といった号も用いました。彼の生涯は、学問と商売、両面での才能と努力によって彩られています。

生い立ちと家業

三中は、常陸国土浦藩の城下、田宿町で生まれました。父は薬種商と醤油製造業を兼ねる色川英恵、母は富。色川家はもともと紀伊国の土豪でしたが、後に常陸国に移り、土浦で薬種業を始めました。土浦藩が醤油生産を奨励したこともあり、色川家も醤油醸造業を創業し、三中の時代には、城下でも有数の業者として知られるようになりました。三中は、文化10年（1813年）に江戸の商家で奉公した後、土浦に帰郷し、文政8年（1825年）に父の跡を継ぎました。

商人としての活躍

三中が家業を継いだ頃、城下では醤油醸造業者が増え、競争が激化していました。しかし、三中は不振だった家業を立て直し、天保2年（1831年）頃には安定させることに成功します。その後、弟の美年に薬種商を任せ、自身は川口町の支店で醤油醸造に専念しました。彼の醤油は江戸城本丸西丸にも納められ、その品質の高さが伺えます。

国学者としての顔

幼少の頃から学問を好み、和歌や国学に深い関心を持っていた三中は、多忙な商売の合間を縫って学究に励みました。天保5年（1834年）には平田篤胤、天保7年（1836年）には橘守部に入門し、国学の知識を深めました。古典の研究にも力を注ぎ、古文書の収集や、古代の制度、特に度量衡や田令の分析に尽力しました。また、散逸しかけていた中山信名の著述をまとめ上げるなど、その功績は多岐にわたります。黒川春村や山崎知雄らとの交流を通じて、佐久良東雄とは義兄弟となり、伊能穎則や久米幹文らに影響を与えました。主な著作には『田令図解抄』『度量衡考』『瑞霞園筆記』『家事誌』などがあります。

人物と晩年

温厚篤実な人柄で、敬神尊皇の念が非常に深かったと伝えられています。安政2年（1855年）に没し、土浦の神龍寺に葬られました。その功績を称え、大正期には特旨を以って正五位が贈られました。神龍寺の境内には、彼の記念碑が建立されています。

家族

父の英恵は、今川伝左衛門の三男で、色川章英の娘の婿養子でした。母の富は、色川章英の長女です。三中は4人の妻を迎え、養嗣子には、従弟の木村政吉を迎え、三中の娘婿を妻としました。政吉は三中の死後、家督を継ぎ、色川三郎兵衛（貞興）を襲名し、醤油業に従事しました。養孫には代議士となった色川三郎兵衛英俊がおり、その家系はさらに発展しました。

次弟の美年は、三中が分家した際に本家の薬種業を継ぎ、徳右衛門を名乗り、製薬・歯磨き製造販売に従事しました。三弟の御蔭は、当初旗本牧野家に勤めていましたが、後に三中の醤油業を手伝い、その後は文人として活動しました。御蔭の家系からも、富士製紙常務や海軍大佐など、各界で活躍する人物を輩出しています。

まとめ

色川三中は、江戸時代後期において、国学者と商人という二つの顔を持ちながら、どちらの分野でもその才能を発揮した稀有な人物です。彼の残した業績は、今日の私たちにとっても大きな遺産と言えるでしょう。

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