佐久良東雄

佐久良東雄（さくら あずまお）：幕末の国学者・歌人

佐久良東雄（さくら あずまお）は、文化8年（1811年）に生まれ、万延元年（1860年）に没した幕末時代の国学者、歌人です。飯島を本姓とし、靱負（ゆきえ）、寛、静馬、健雄などの通称や薑園（きょうえん）という雅号を持っていました。尊皇攘夷の志士としても活動した人物です。

生涯

少年・青年時代

常陸国新治郡浦須村（現在の茨城県石岡市浦須）で、代々名主を務める郷士・飯島平蔵の長男として生を受けました。幼名は吉兵衛。9歳で観音寺に入り、住職である阿闍梨康哉に師事。「万葉法師」とも呼ばれた康哉から万葉和歌を学びました。15歳で得度し、法名を良哉、字を高俊と改めます。17歳の時には、減租を求めて蜂起した民衆を説得し、代官に直訴して民を救ったという逸話も残っています。

その後、奈良の長谷寺で仏道修行に励みますが、天保3年（1832年）に康哉が亡くなった後、観音寺の住職を引き継ぎます。さらに天保6年（1835年）、善応寺の住職となりました。

真鍋村（現在の茨城県土浦市）に移った20代の頃から、藤田東湖、会沢正志斎、加藤桜老、大久保要、色川三中、藤森弘庵らと交流し、水戸学や国学を学びました。この頃から東雄と号し、歌人として知られるようになります。藤田東湖らから水戸藩への出仕を勧められますが、固辞しました。

江戸移住

天保13年（1842年）、善応寺の住職を辞し江戸へ移り、平田篤胤の門下で国学を学びます。天保14年（1843年）には国学の復古を志し、勤王を誓うために還俗。鹿島神宮に参詣し、桜樹千株を奉献しました。この桜にちなんで佐久良靱負東雄と改名しています。現在も鹿島神宮には「東雄桜」が残っています。

弘化元年（1844年）、水戸藩奥医師である鈴木玄兆の娘・輝子と結婚。二男二女をもうけました。

上方移住以降

各地で尊王論を遊説した後、弘化2年（1845年）に上洛し妙法院宮の家人となり、和泉国大鳥郡（現在の堺市）に滞在して歌学を講じました。その後、大阪北久宝寺に移り、坐摩神社の神官を務め、国学書を出版。惟神舎を開き国学・皇学を指導しました。和歌山池上村庄屋の南繁信と親交を深め、南家に滞在し尊王思想を広めました。

安政元年（1854年）、京都に移り、白川資訓に白家神道を学び、神祗道学師の称号を受けました。妙法院宮に召されて皇学教授に任じられます。安政4年（1857年）、妻輝子が死去。この頃、静馬あるいは健雄との通称を名乗り、薑園と号しました。

その後、大阪に移り住み、万延元年（1860年）に桜田門外の変に参加した水戸浪士たちの支援を行いますが、高橋多一郎父子を匿った罪で同志と共に捕縛され、江戸伝馬町の牢獄に移送。獄中で病死しました。

没後

東雄の遺体は小塚原の回向院に埋葬されましたが、明治2年（1869年）に大阪天王寺の夕陽丘に改葬。その後、東成郡共同墓地を経て、昭和7年（1932年）には善応寺に改葬され、忠霊堂が建設されました。明治24年（1891年）には靖国神社に合祀され、明治31年（1898年）、従四位が贈られています。

歌人としての評価

東雄は多数の和歌や長歌を残しており、天保11年（1840年）には歌集『はるのうた』を刊行しています。佐佐木信綱は東雄を「勤王家中第一の歌人」と評し、万葉調の古調の中に爽快感があると評価しました。昭和初期には評価が高まり、愛国百人一首にも選ばれています。

佐久良東雄旧宅

幼少期を過ごした生家は、国の史跡に指定されています。茅葺平屋建の母屋は、18世紀中期から末期の建築と推定され、常陸地方の旧民家の特徴を良く残しています。

史跡（国指定） 佐久良東雄旧宅 茨城県石岡市浦須314-1
指定年月日 1944年（昭和19年）3月7日

佐久良東雄は、激動の幕末期に尊皇攘夷の思想を抱き、歌人としても優れた才能を発揮した人物として、その名は後世に伝えられています。

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