芸術座 (劇団)

芸術座は、日本の演劇史において重要な役割を果たした劇団です。二つの時代にわたり、演劇界に大きな足跡を残しました。

第一次芸術座 (1913年 - 1919年)

1913年、島村抱月は松井須磨子との関係が公になり、坪内逍遥の文芸協会を離れることとなりました。彼は松井、相馬御風、水谷竹紫、沢田正二郎、秋田雨雀らと共に新たな劇団「芸術座」を立ち上げました。この劇団は、島村の革新的な演劇理論と、松井の卓越した演技力によって、瞬く間に注目を集めました。

1914年3月26日、芸術座はトルストイの『復活』を上演し、大きな成功を収めました。劇中で松井が歌う「カチューシャの唄」は、観客の心を捉え、記録的な大ヒットとなりました。当時、蓄音機の普及はまだ進んでいませんでしたが、「カチューシャの唄」のレコードは2万枚を売り上げ、芸術座の名を全国に広めました。この成功を機に、芸術座は東京市牛込区（現在の新宿区）に活動拠点となる「芸術倶楽部」を建設しました。

その後も、ツルゲーネフの『その前夜』やトルストイの『生ける屍』など、話題作を次々と上演しました。これらの作品でも劇中歌が人気を博し、『ゴンドラの唄』や『さすらいの唄』がヒットしました。しかし、劇団内部では松井と他の団員との間に確執が生じ、水谷竹紫や沢田正二郎らが相次いで脱退しました。

1918年11月、島村抱月がスペイン風邪により急逝。2か月後には、松井須磨子が島村の後を追うように自殺し、第一次芸術座は解散しました。

第二次芸術座 (1924年 - 1945年)

1924年、水谷竹紫は演劇界の発展と、義妹である女優・水谷八重子の育成を目指し、劇団の再結成を考えました。島村の遺族から「芸術座」の名前の使用を勧められたこともあり、第二次芸術座が誕生しました。この時、汐見洋、田村秋子、友田恭助、青山杉作などが協力者として参加しました。

第二次芸術座は、竹紫の芸術に対するこだわりが強く、衣装や小道具に多大な費用をかけたため、商業的には苦戦しました。そのため、松竹との提携や満州公演、新派一座との共同公演などを積極的に行い、経営の安定を図りました。

1935年に竹紫が亡くなった後は、八重子が中心となって劇団を率い、活動を続けました。しかし、第二次世界大戦が激化し、本土空襲が頻繁になる中で、公演の継続が困難となり、1945年に解散しました。

芸術座は、日本の演劇史において、新劇の発展に大きく貢献した劇団として記憶されています。島村抱月と松井須磨子の情熱、そして水谷竹紫と水谷八重子の努力によって、芸術座は一時代を築き上げました。

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