芹明香

日本の女優、芹明香（せり めいか）は、1954年1月14日に島根県出雲市で誕生しました。本名は高橋敦子。身長160cm、1973年12月時点のスリーサイズはB83cm、W58cm、H86cmと記録されています。

その生い立ちは波乱に満ちています。出雲市内で紳士服などを扱う商家の七人兄弟の六番目として生まれ、四人兄弟として育ちました。幼い頃は医師になることを志し、国立大学を目指すほど学業優秀な中学生でした。しかし、受験勉強中の1969年1月19日に報じられた東大安田講堂事件のニュース映像に大きな衝撃を受けます。島根県の進学校である島根県立出雲高等学校に入学はしたものの、次第に学業からは離れ、島根大学の全共闘を支援するようになります。やがて売春事件に関与したことで、高校を二年次に中途退学。わずか15歳で故郷を離れ大阪へ渡りました。大阪では府立天王寺高等学校の定時制に編入しましたが、数ヶ月で通学を辞めています。

1971年に上京した後は、東京都町田市の精肉店での住み込み勤務をはじめ、会社員、ホステス、ヌードモデル、ストリッパーなど、多岐にわたる職を転々としました。女優への転機となったのは、ヌードモデル時代の写真が荒木一郎氏の目に留まったことでした。荒木氏にスカウトされ、「芹明香」という芸名も彼によって名付けられたといいます。荒木氏が彼女をスカウトしたきっかけは、マネージャーが彼女を「どうしようもないブス」と紹介したことだった、という逸話も残っています。荒木一郎氏は当時、東映の依頼を受けて芸能事務所「現代企画」を運営しており、池玲子や杉本美樹、潤ますみといった女優たちが所属していました。

芹明香は1973年、東映映画『やさぐれ姐御伝 総括リンチ』で女優として本格的にデビューを果たしました。翌1974年には『青春の蹉跌』で印象的な役を演じ、同年公開された日活映画『（秘）色情めす市場』（田中登監督作品）では、大阪・飛田で生きる娼婦を演じ、キネマ旬報などで高い評価を得ました。彼女の演技は、いわゆる美人女優やグラマー女優とは異なる独自の魅力があり、「ドヤ街の娼婦役をやらせれば天下一品」と評されるほど、アウトローな女性や社会の底辺で生きる人々を演じることに長けていました。神代辰巳監督作品にも数多く出演し、大島渚監督の『愛のコリーダ』にも脇役として登場しています。テレビドラマでは『夜明けの刑事』にヌードの後ろ姿で出演したほか、『前略おふくろ様』に準レギュラーとして出演するなど、活躍の場を広げました。

一方で、私生活は波乱に満ちていました。稼いだお金は暴力団関係のヒモに吸い上げられていたとされ、また馴染みの俳優から勧められたことで覚醒剤にも手を染め、常習犯となってしまいます。1977年に一度目の逮捕時には東京地裁から温情判決を受けますが、1979年には三度目の麻薬不法所持容疑で逮捕されました。

しかし、その個性的な存在感は時を経て再評価されています。2010年代以降、東京の名画座や小規模映画館でたびたび芹明香の出演作品特集が組まれるようになりました。2014年にはラピュタ阿佐ケ谷で「わたしたちの芹明香」と題した特集上映で11作品が上映され、2016年10月にはシネマヴェーラ渋谷で「芹明香は芹明香である！」という特集が組まれ、この際に久々に公の場に姿を見せました。2018年にも新文芸坐で特集プログラムが開催されています。女優の橋本愛氏も、好きな女優として宮下順子氏とともに芹明香氏の名前を挙げていることからも、その影響力と評価の高さがうかがえます。

アウトローな役柄に唯一無二の説得力を与え、「天下一品」とまで評された芹明香。波乱の半生を経てなお、その強烈な個性と魅力は多くの映画ファンを惹きつけています。数々の映画、テレビドラマ、オリジナルビデオ、舞台作品で、彼女の存在は輝きを放ち続けています。

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