若い男の肖像 (ペルジーノ)

『若い男の肖像』：ペルジーノが描いた謎の青年

盛期ルネサンスの巨匠、ピエトロ・ペルジーノによって1480年頃に描かれたとされる『若い男の肖像』は、その美しい描写と謎めいた背景で多くの人々を魅了してきました。この油彩画は、現在フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されており、ペルジーノの肖像画の中でも特に重要な作品として知られています。

作品の背景

この肖像画は、以前はフィレンツェの人文主義者であり詩人、そして外交官でもあったアレッサンドロ・ブラッチェッシを描いたものだと考えられていました。ブラッチェッシは1445年にフィレンツェの裕福ではない貴族の家庭に生まれ、公証人としてキャリアをスタートさせ、後にシニョリーア付き公証人となりました。彼はまた、1470年以降にイタリア語とラテン語で詩作を始め、3巻の詩集を編纂しています。その詩集は、商人フランチェスコ・サッセッティやロレンツォ・デ・メディチなどのフィレンツェの有力者、そして若いウルビーノ公爵グイドバルド・ダ・モンテフェルトロに献呈されました。さらに、ブラッチェッシは外交官としても活躍し、1497年にはローマ教皇アレクサンデル6世との交渉役を務めるなど、多才な人物でした。しかし、この肖像画に描かれている若者がブラッチェッシであるという説は、現在では否定されています。

作品の特徴

肖像画に描かれた若い男は、大きな瞳と美しい唇、そして長く豊かな髪を持つ魅力的な人物です。頭には帽子をかぶり、同じ色のハイネックのチュニックを身につけています。彼は顔をやや左側に傾け、憂いを含んだ表情で鑑賞者を見つめています。ペルジーノの他の作品とは異なり、背景は描かれていません。絵の裏側には、かつてこの人物がアレッサンドロ・ブラッチェッシであると記されていたようですが、現在ではその銘文はほとんど判読できない状態です。

ブラッチェッシ説の否定

描かれている人物が20代前半、あるいはそれよりも若く見えるのに対し、1445年生まれのブラッチェッシは、肖像画が描かれたとされる当時、30代後半から40代であったはずです。この年齢の不一致が、この肖像画がブラッチェッシのものではないとされる主な理由です。ただし、ブラッチェッシとペルジーノが親しい間柄であった可能性はあります。ブラッチェッシが住んでいたフィレンツェのピンティ通りには、ペルジーノや建築家のジュリアーノ・ダ・サンガッロ、アントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ジョヴァネも住んでいました。このことから、ブラッチェッシが自身の息子、おそらくは1483年生まれの長男コルネーリオの肖像画をペルジーノに依頼したのではないかという推測もされています。

帰属に関する議論

この肖像画は、長らくロレンツォ・ディ・クレディ、ティモテオ・ヴィティ、ヤーコポ・フランチャ、ラファエロ・サンツィオなどの作品とされてきました。しかし、1890年に美術史家ジョヴァンニ・モレッリが『イタリアの画家』の中でペルジーノの作品として帰属して以来、この説は広く受け入れられています。

作品の来歴と複製

『若い男の肖像』は、1800年にピッティ宮殿からウフィツィ美術館に移されました。1998年には修復作業が行われ、より鮮やかな姿を取り戻しています。また、この作品の複製がローマのボルゲーゼ美術館に所蔵されており、かつてはティツィアーノ・ヴェチェッリオの作品と考えられていたこともありました。しかし、その様式はオリジナルに比べてやや硬直しており、模写であることがわかります。

ペルジーノの肖像画の特徴

ペルジーノは、盛期ルネサンスを代表する画家のひとりであり、その作品は柔らかい色彩と繊細な描写が特徴です。特に肖像画においては、モデルの内面を捉えるような、静かで落ち着いた雰囲気を醸し出します。『若い男の肖像』もまた、ペルジーノのそうした特徴をよく示しており、その芸術性の高さが伺えます。

まとめ

『若い男の肖像』は、描かれた人物が誰であるかという謎を含みながらも、その卓越した描写力と美しい色彩によって、観る者を惹きつけてやまない傑作です。ペルジーノの才能とルネサンス期の芸術の魅力を今に伝えるこの肖像画は、ウフィツィ美術館を訪れる人々にとって、必見の作品の一つと言えるでしょう。

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