若林忠宏

若林忠宏氏は、1956年に東京都で生まれた日本の民族音楽演奏家です。特にインドを代表する撥弦楽器であるシタールの名手として広く知られていますが、シタール以外にも多種多様な撥弦楽器や打楽器を操ります。シンガーソングライターの若林マリ子は実妹にあたります。

彼は幼少期から音楽や芸術に囲まれた環境で育ちました。父は文学座で俳優兼演出家を務め、母はピアノ教師という家庭でした。中学生の頃に民族音楽と運命的に出会い、これをきっかけにシタールを入手。演奏法は独学で習得するという類稀な才能を発揮しました。この学生時代から既に演奏活動を開始しており、当時の文化の発信地として知られた池袋パルコや渋谷ジァン・ジァンといったライブスポットで積極的にステージに立っていました。

音楽家としてのキャリアの初期段階では、ミステリー作家として名高い島田荘司氏が率いたロックバンドにシタール奏者およびタブラ奏者として参加しています。さらに1977年には、日本のニュー・ウェイヴ／テクノポップシーン黎明期を代表するバンド「ヒカシュー」の初期メンバーとしても活動しました。

1978年には、日本において初めて民族音楽を専門とするライブハウスを開設するという画期的な試みを実行しました。このライブハウスでは、民族音楽という枠にとらわれない自由な発想のもと、多くの新しい演奏スタイルや表現方法が試され、日本の音楽シーンに新たな風を吹き込みました。

その後も彼の音楽活動は多岐にわたり、1986年にはサイケデリック・ロックバンド「七福神」にメンバーとして加わりました。また、音楽のジャンルを超えて、細野晴臣氏（音楽家）、妹尾河童氏（イラストレーター、舞台美術家）、本篠秀太郎氏（映画監督）といった、様々な分野で活躍する表現者たちとの共演も実現しており、その活動範囲の広さと多様性が窺えます。

若林氏は演奏活動と並行して、日本の民族音楽界における普及・啓蒙活動にも精力的に取り組んでいます。全国各地に赴き、民族音楽教室を開講することで、多くの人々に民族楽器の魅力やその背景にある文化、歴史を伝えています。また、日本の貴重な文化財である正倉院に伝わる五弦琵琶の修復プロジェクトにも関わるなど、文化財の保存・継承という側面でも貢献を果たしています。

特に九州地方での活動は非常に活発です。2005年には福岡市に「民族音楽センター九州」を設立し、この施設を拠点として活動を展開しています。九州各地で開催される多数の演奏会やイベントに積極的に出演し、地域社会における民族音楽文化の振興と普及に大きく貢献しています。

著作活動も多岐にわたり、これまでに多くの書籍を発表しています。代表的な著書としては、自身の演奏体験に基づく『アジアを翔ぶシターリスト』や、民族楽器に関する入門書・専門書である『民族楽器大博物館』、『民族楽器を楽しもう』、世界の音楽文化に触れる『世界の師匠は十人十色』、『もっと知りたい世界の民族音楽』、さらには『アラブの風と音楽』、『世界の民俗音楽辞典』、『スローミュージックで行こう』、『民族楽器を演奏しよう』、『日本の伝統楽器』などがあります。これらの著作は、民族音楽の世界への興味を持つ人々にとって、貴重な情報源となっています。

メディアへの出演経験もあり、2005年10月7日にはテレビ朝日系列のバラエティ番組「タモリ倶楽部」に出演しました。「もしもエレキシタールが弾けたなら ～せっかくなので一度だけ習ってみよう～」と題された企画の中で、司会のタモリ氏をはじめ、ゲストの大槻ケンヂ氏、マギー氏に対し、エレキシタールの基本的な演奏方法や、インド音楽の根幹をなすドローン、ラーガ、ガマクといった概念について、分かりやすく解説・指導を行いました。番組内では、シタールを用いてビートルズの名曲「ラヴ・ユー・トゥ」のイントロ部分を演奏し、そのサウンドをインド音楽風にアレンジする試みも披露。また、電子タブラの機能や魅力についても解説を行いました。これらの活動を通じて、日本の民族音楽シーンにおいて、演奏家、教育者、文化の担い手として多大な影響を与え続けています。

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