莫賀咄侯屈利俟毘可汗

莫賀咄侯屈利俟毘可汗（バガトゥル・キュリュグ・シビ・カガン）

莫賀咄侯屈利俟毘可汗（？ - 630年）は、7世紀前半に西突厥を支配した可汗であり、その治世は短いながらも激動に満ちていました。彼の生涯は、西突厥の衰退と内紛の時代を象徴しています。

生涯

即位までの経緯

628年、莫賀咄（バガテュル）は、当時の大可汗であった統葉護可汗（トン・ヤブグ・カガン）の伯父という立場にありました。彼は小可汗の地位に甘んじることなく、甥である統葉護可汗を殺害するという大胆な行動に出ます。そして、自ら大可汗の座を簒奪し、莫賀咄侯屈利俟毘可汗と号しました。

しかし、この強引な簒奪は、西突厥の国人たちの反発を招きました。特に、有力な部族である弩失畢部は、莫賀咄の支配を認めず、泥孰莫賀設を新たな可汗として推戴しようとしました。しかし、泥孰はこれを固辞します。

一方、殺害された統葉護可汗の子である咥力特勤（テュルク・テギン）は、莫賀咄の難を避けて康居（現在のソグディアナ地方）へ亡命していました。泥孰は、この咥力特勤を迎え入れ、乙毘鉢羅肆葉護可汗として擁立します。こうして、西突厥は莫賀咄侯屈利俟毘可汗と乙毘鉢羅肆葉護可汗の二人の可汗が並び立つという分裂状態に陥りました。両者はそれぞれ唐に使節を派遣し、朝貢することで、自らの正当性を主張しました。

唐への求婚と内乱

630年、莫賀咄可汗は唐に対して求婚を申し入れます。しかし、当時の唐の太宗は、西突厥の内乱が収まっていないことを理由に、この求婚を許可しませんでした。この頃、西域諸国や鉄勒といった、これまで西突厥に従属していた勢力が、内紛に乗じて次々と反旗を翻しました。これにより、西突厥国内は疲弊し、国力は著しく低下しました。

乙毘鉢羅肆葉護可汗は、旧主の子という正当性と人望により、次第に支持を集めていきます。西面の都陸可汗や、莫賀咄可汗の部下の有力者たちも、次々と乙毘鉢羅肆葉護可汗に臣従しました。そしてついに、乙毘鉢羅肆葉護可汗は兵を起こし、莫賀咄可汗を攻撃します。莫賀咄可汗は大敗を喫し、金山（アルタイ山脈）へと逃亡しましたが、最終的には泥孰によって殺害されました。これにより、西突厥の国人たちは乙毘鉢羅肆葉護可汗を正式な大可汗として奉戴し、ようやく西突厥は統一を取り戻しました。

莫賀咄侯屈利俟毘可汗の治世は、西突厥の内紛と衰退を加速させる結果となりました。彼の強引な簒奪は、国内の分裂を招き、周辺諸国の離反を招きました。彼の短い統治は、西突厥の歴史における暗黒時代として記憶されています。

脚注

参考資料

『旧唐書』（列伝第百四十四下 突厥下）
『新唐書』（列伝百四十下 西突厥）
護雅夫『古代トルコ民族史研究Ⅲ』（1997年、山川出版社）
佐口透・山田信夫・護雅夫訳注『騎馬民族誌２正史北狄伝』（1972年、平凡社）

もう一度検索